トリプルネガティブ乳癌(NBC)のうち、BRCAなどの遺伝子変異や乳癌卵巣癌の家族歴がある患者は、術前化学療法へのカルボプラチン上乗せ効果の恩恵を受けやすい――。5月30日から6月3日まで米国シカゴで開催された第50回米国臨床腫瘍学会(ASCO2014)でドイツフランクフルト大学のGunter Von Minckwitz氏は、GeparSixto試験の副次評価項目の解析結果を発表した。
同グループはGeparSixto試験の結果から、TNBCおよびHER2陽性の早期乳癌に対する術前化学療法において、アントラサイクリン系やタキサン系の抗癌剤にカルボプラチンを上乗せすることで、病理学的完全奏効率(pCR)を高められることを報告していた。
GaparSixto試験の概要は次の通り。中央病理診断によってTNBC(ERとPgRは1%未満、HER2陰性)と判定された患者、または、HER2陽性乳癌患者、計595人を2群に割り付け、一群にはベバシズマブとパクリタキセル、ドキソルビシンを内包した糖鎖非修飾リポソームとの併用療法(PM群)による術前化学療法を、もう一群にはさらにカルボプラチンを加えた併用療法(PMCb群)による術前化学療法を術前まで実施。カルボプラチンの併用の有無でpCRに差が生じるかを調べた。
その結果、PM群(293人)のpCRは36.9%、PMCb群(295人)のpCRは43.7%となり、有意差は認められなかった(オッズ比1.33、95%信頼区間:0.96-1.85、p=0.107)。しかし、そのうちTNBC患者315人を抜き出して解析を行ったところ、PM群(157人)のpCRは36.9%、PMCb群(158人)のpCRは53.2%となり、有意差が示された(オッズ比1.94、95%信頼区間:1.24-3.04、p=0.005)。
今回、同グループは、GaparSixto試験に参加したTNBC患者のうち血液サンプルが保存されていた294人について、BRCA遺伝子変異などの有無や家族歴の有無とpCRの相関について解析した。具体的には、乳癌または卵巣癌の家族歴を調査するとともに、MLPA法やサンガー法、次世代シーケンサーを使ってより厳密に遺伝子変異の有無を解析した。PM群(146人)とPMCb群(148人)において、家族歴を有していた患者は34.9%と33.8%、生殖細胞系の遺伝子変異を有する患者は15.8%と14.2%存在した。遺伝子変異の内訳は、BRCA1遺伝子変異が13.0%と10.8%、BRCA2遺伝子変異が1.4%と2.7%、RAD50/51遺伝子変異が1.4%と0.7%だった。
これらの解析結果を基にTNBC患者(294人)を分類し、pCRを調べたところ、家族歴も遺伝子変異もなかった患者集団のpCRは40.4%だったが、家族歴のみ有する患者集団のpCRは44.3%、遺伝子変異のみ有する患者集団のpCRは45.5%、そして家族歴も遺伝子変異も有する患者集団のpCRは63.6%に達し、最も高かった。
さらにGaparSixto試験でのPM群とPMCb群のpCRを比較し、カルボプラチンの上乗せ効果が最も大きな患者集団を調べた。家族歴も遺伝子変異もなかった患者集団では、pCRの上乗せ効果は11.5%増加にとどまったが、家族歴にかかわらず遺伝子変異を持つ患者集団では23.5%、家族歴のみ有する患者集団では26.7%、pCRが増加した。Minckwitz氏は「生殖細胞系の遺伝子変異や乳癌卵巣癌の家族歴を調べることは、術前化学療法へのカルボプラチンの上乗せでより高い効果を得られる患者を同定することにつながるだろう」と話した。
もっとも、研究グループは現在さまざまな手法を用いて、癌細胞のBRCA遺伝子変異など、さらなる遺伝子変異の同定を実施しており、遺伝子変異を有する患者がさらに増える可能性がある。最終的な解析結果は2015年に発表される予定だ。