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知っておきたい骨転移

2013/10/15

第8回

薬剤による骨転移治療

橋本伸之

 骨転移が発見されると、まず重大な事態が発生するリスクが評価されます。第4~5回で取り上げた骨折や麻痺などの重大な事態が差し迫っていれば、緊急入院ということもあり得ますが、当面身体への影響はないと判断される場合、薬剤による治療が考慮されます。

 薬剤による骨転移治療で主たる役割を果たすのは、がんそのものを抑える薬物治療です。すなわち分子標的薬や抗癌剤、乳癌や前立腺癌に対する抗ホルモン剤などです。後述する「ゾメタ」(一般名ゾレドロン酸)や「ランマーク」(一般名デノスマブ)は骨の破壊を防止する働きはありますが、がん細胞を直接退治する作用を期待するものではありません。

 骨転移がある場合であっても、がん細胞を抑える治療を行うことが最優先です。がん細胞を抑える分子標的薬や抗癌剤、抗ホルモン剤がよく効いた場合、骨転移巣も小さくなることが期待されます。骨転移といえども転移の一形態であり、抗腫瘍効果のある薬剤による治療が最優先なのです。したがって、主治医による治療が重要で、骨転移が認められる患者さんだからと言って、我々整形外科が単独で治療を行なうものではないことがお分かり頂けると思います。

 がんの勢いを抑える治療と並行して、今日では、骨転移に対してゾレドロン酸、デノスマブによる治療が一般化してきました。これらは、骨の中にある破骨細胞という特殊な細胞の働きを抑えたり、新たに作られるのを防いだりする薬剤です。

 これらの薬剤は、骨粗鬆症など骨の代謝を調べる研究の恩恵を受けて開発されてきたものです。人体の中では、ある場所では骨は吸収され、またある場所では新しい骨が作られて、日々新しい骨に置き換わっているのですが、骨を吸収する作業を担当するのが破骨細胞です。骨転移が骨を壊していく際、がん細胞はこの破骨細胞の助けを借りていることが立証されており、この破骨細胞による骨吸収を止めてしまおうという作戦です。がん細胞を抑え、破骨細胞も抑えてしまう、この2本立てで骨転移への薬物治療が行われているのです。

 ゾレドロン酸は2006年から、デノスマブが2012年から使用されるようになり、前者が15~20分程度の点滴で、後者が皮下注射で、ともに4週間に1回の間隔で投与します。後発のデノスマブが、比較試験で効果が若干上回るとされていますが、低カルシウム血症による死亡例が報告されたことから、カルシウム製剤およびビタミンDの補充が必要とされています。両薬剤には一長一短があり、実臨床での使用においては甲乙つけがたいところです。

 両薬剤に共通する注意点に歯の健康があります。歯も顎の骨を土台にしていますので、何となく関連がありそうなのがお察しいただけるかと思います。前述の破骨細胞の働きが全身的に抑制された結果、顎骨壊死という副作用が生じることが知られています。

 この顎骨壊死が起こるリスク要因として、抜歯やインプラント埋入などの歯科治療、口腔衛生状態の不良、歯周病や歯周膿瘍などが挙げられています。例えば、ゾレドロン酸、デノスマブの治療中に抜歯が必要になった場合、薬剤を中止すべきかという悩ましい判断に迫られる訳ですが、骨代謝学会のポジションペーパーでは原則的に投与継続しつつも個別にメリット・デメリットを判断するとなっています。

 骨転移の知識を持ち始めた皆さんは、がんの診断を受けた後、歯の健康が意外にも大切だということにお気づき頂けたかと思います。未治療の虫歯がある方は、歯の健康のためにも是非治療を受けておきましょう。悩ましい判断に迫られるより、あらかじめきちんと治しておき、口腔内のケアを積極的に受けておくことが一番の解決策になります。

 顎骨壊死と並ぶ合併症として、近年では非定型骨折も広く知られるようになってきました。発生頻度は非常に低いのですが、ゾレドロン酸やデノスマブの長期投与により、多くの場合、大腿骨転子下とよばれる股関節寄りの部位に発生します。長期というのは、明確な期間は示されていませんが、数年単位と考えられています。顎骨壊死と同様、骨の代謝に変化を来した結果、普段の生活の中で大腿骨が受けている微小なダメージがうまく修復されず、あるとき痛みが生じてきて、レントゲンを取ると骨にヒビが入ったあとが観察されるものです。

 繰り返しになりますが、骨転移の薬による治療は、あくまでもがんを抑える治療が主であり、ゾレドロン酸やデノスマブは従の位置づけです。主たる治療が著効していて、すでに年単位で投与を受けておられるなどの場合、休薬が考慮される傾向になってきています。

 最後になりましたが、骨転移による痛みの治療に用いられる薬剤にストロンチウム89(商品名「メタストロン」)があります。2009年にがんナビのサイトで、山下孝先生の詳細な記事が紹介されています。是非ご覧になって下さい。

 さまざまな骨転移治療薬がここ10年で登場してきました。骨転移が、がん診療において重要な課題となってきたことが、薬剤による治療からも見えてきますね。

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橋本伸之 /著 1470円 文芸社
ISBN978-4-286-13355-3 、245ページ

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