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知っておきたい骨転移

2013/10/22

第9回

骨転移に対する放射線治療

橋本伸之

 今回は、骨転移治療の中でとても重要な役割を果たす放射線治療について解説します。薬剤による治療にも関わらず骨転移が進行し、痛みが出現しはじめると、次に考慮される方法が放射線治療です。

 放射線治療は、骨転移を切除せずに治療する手段の一つで、1回の照射は、正確に照射位置を合わせる作業などを入れて10~20分程度です。1つの病変部位に対する治療は、一般的には10~20回の照射回数で、治療に要する期間は2~4週となります。照射中に痛みが生じたり熱く感じたりするようなことはありませんので、身体的負担は比較的小さいものです。ただし、治療前には合併症についての説明も受けますので、心配に思うことがあるかもしれません。放射線治療医の慎重なリスク管理の元に行われていますので、治療上の必要性とメリットをなるべく心に留めるようにして下さい。

 放射線治療は基本的には通院で行われます。通院が困難な場合は相談が必要です。状況に応じて入院が考慮されたり、都市部では医療連携によって自宅近くの他院が紹介されたりする場合もあります。

 手術による治療と比較すると負担は小さい放射線治療ですが、重要な留意点があります。それは、一ヵ所の病変部位に対する治療回数は、基本的には一回という点です。照射回数と治療回数の話が出て、混乱しやすいですが、一般的に10~20回の照射回数からなる1回の治療を、2回も3回も実施することは難しいという原則があるのです。これは照射される部位によって、耐容線量といい、正常組織に障害を起こさないための上限があるためです。

 今日のように骨転移が生じても長くがんと共に歩む患者さんが増えてくると、一度放射線治療を行っても、数年後に再び増大してくるケースがみられるようになってきています。もし背骨の骨転移であれば、二回目の治療でさらに10~20回照射すると、とくに放射線の影響を受けやすい脊髄の耐容線量を越えてしまい、合併症の危険性が高まってしまいます。

 すなわち、放射線治療のタイミングが早過ぎれば、将来、再増大の懸念を残すことになり、放射線治療のタイミングが遅れると、骨折や麻痺の危険性が高まることになるのです。少々難しい話になってしまいましたが、実際の診療の場面で目安となるのは、痛みなどの症状の出現する時期です。画像検査で骨転移がかなり目立つようになっても、全く無症状の場合には放射線治療は見送られることが多いと思います。一概には言えないのですが、症状が出てきた頃を放射線治療の開始時期と判断するのが一般的です。

 なお、再照射(二回目の治療)における合併症軽減の試みとして、IMRT(強度変調放射線治療)と呼ばれる照射方法が開発されています。がんの形に応じて放射線の強度を変化させてがん以外の組織への照射量を軽減させる新しい照射法です。しかし、IMRTは、現在のところ保険適応が単発性病変に限られています。多発することの多い骨転移では、自由診療となり、高額の自己負担を要してしまいます。

 放射線治療の開始時期の判断は主治医が行うケースが多いと思われますが、微妙な判断、例えば放射線治療を今すべきか、今は別の治療法を選択すべきか、などの判断が必要なときは、放射線治療医、整形外科医も議論に加わっています。難しい判断が患者さんに求められる訳ではありませんので、ご安心下さい。ただ、長い療養生活を不自由なく過ごすため、再発をも念頭において治療時期が決定されていることは、知識として知っておいて頂きたい点です。再発の危険や合併症の話を聞いた際にも、心配な事態を回避するベストな方法がご自身でも理解しやすくなり、心の負担の軽減につながるのではと思います。

 今回は、骨転移に対する放射線治療をテーマに、治療の実際と治療開始の判断がどのように行われているかを紹介しました。放射線治療は、負担の大きい手術治療を回避する上で、とりわけ重要な治療手段ですが、実施するタイミングの判断は、多くの要素を加味してなされています。

 なお紙面の都合上お話しできなかった照射範囲や照射回数、治療後の骨強度の回復、重粒子線治療、医療連携の際の注意点などについては、拙著をご参照頂ければ幸いです。

■橋本氏の書籍の購入(Amazonサイトにリンクしています)

橋本伸之 /著 1470円 文芸社
ISBN978-4-286-13355-3 、245ページ

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