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知っておきたい骨転移

2013/11/12

第10回

骨転移に対する手術に臨む前に

橋本伸之

 今回のテーマは、あまり考えたくもないことなのかもしれませんが、骨転移の手術についてです。拙著の中では、さまざまな手術方法を紹介し、その特徴や使い分けについても解説しました。しかし、今回の連載では、詳しい話は差し控えたいと思います。

 手術に至ることは、患者さんにとって大きな負担です。ご家族にも「どうしてこんなことになってしまったのか」と思う心情が必ずや生じることと思います。これまでの連載記事と読み合わせると、「骨転移への配慮に不足があったのではないか」、と医療者への信頼が揺らいでしまうかもしれません。手術の詳しい解説よりも、この点について多くの方に知っておいていただきたいと思います。

 確かに、わが国のがん診療において、骨転移への配慮はまだ十分でないと言わざるを得ないのが実情です。骨転移のことなど何も知らされていなかったがために、麻痺の症状が出ているにも関わらず、数日間も家で這って我慢し、耐え切れずに病院に担ぎ込まれたときにはもう麻痺は完成してしまい回復不能な状態になっている―。このようなケースが、現実の問題として生じています。

 これまで私のもとに、「患者が学ばねばならないとはいかがなものか」というご意見もいただいています。がん治療の担当医師が十分な知識を身につけることで患者さんが困らないようにすべきというのは、まさしく正論で、がん対策に携わる行政や学会、医学教育に関連する方々にそのままお伝えしたいと思います。我々も当初、がん骨転移の情報を医師を中心に発信してきましたが、残念ながら効果が上がったとは言えませんでした。

 各診療科の医師は、自らが志した専門領域を極めようと、厳しい勤務環境の中で全力を尽くしています。がんは人類にとってやはり手強い相手ですから、各診療科の医師は、まずがん(原発がん)の克服に全力を注いでいるのです。骨転移に対する配慮が不十分であったことを非難するのは簡単なことですが、担当する原発がん(最初に発生したがん)をいかに治療し、救命するかに各診療科が全力を尽くしている中で、骨転移への対応にまで完璧を求めるのは難しい面があるのです。

 骨転移の管理を改善するためには、がん治療医の教育プログラムに最低限の知識を加えたり、腫瘍整形外科医の育成や医療保険制度上の見直しを行ったりするなど、システムの改革が必要です。各診療科の医師が担当していた一部が、例えば抗がん剤治療を担当する腫瘍内科や緩和医療として独立したように、診療体制を変えていく必要があるのかも知れません。現在のままでは、増加する骨転移に対応しきれなくなるのではと危惧しています。

 手術というテーマからずいぶん脱線してしまいましたが、このような背景がある中で骨転移の手術は、多い施設では年間30件以上も実施されているのです。

 骨転移診療を改善するための第一歩は、まずみなさんに骨転移のことを知ってもらうことです。一般の方々に骨転移のことを知っていただき、、興味を持っていただくことで日々のがん診療において医師が骨転移への配慮の重要性を認識したり、行政では骨転移対策の議論に弾みがつくことにつながるのだと思います。

 骨転移が原因で手足に骨折が起こっても、大多数のケースにおいては、骨の持つ基本的な機能である身体を支えるという機能を回復させることができます。これには、医療機器メーカーの方が開発した様々なプレートやスクリュー、人工関節が大活躍します。

 麻痺が発生したときに脊髄の圧迫を解除する手術では、我々整形外科の中でも脊椎外科医の出番となります。患者さんが手術に耐えうる状態かを慎重に判断し、手術可能となれば休日夜間を問わず手術を実施します。麻酔科医、看護師、検査技師、放射線技師など、多職種がチームに加わります。

 もし手術に臨む前、「どうしてこんなことになったのだろう」という思いが生じたときには、まだ現在のがん診療では残念ながら手術を避けられない場面が生じうることを心にとどめておいて下さい。手術を極力回避するための診断方法も治療方法もおおむね確立しつつあるけれど、日本全国においてそれが機能するまでには、注意喚起や医療資源がまだ十分に行き届いていないのです。

 何よりも、安寧の中で手術に臨まれることを祈るばかりです。こと手術に至っては、技術的なことよりも信頼関係や安心感の中に包まれていることの方が、はるかに大切なことだと感じています。

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橋本伸之 /著 1470円 文芸社
ISBN978-4-286-13355-3 、245ページ

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