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知っておきたい骨転移

2013/11/26

第12回

肺がんの骨転移の特徴と対策

橋本伸之

骨転移の統計を取ると、どこで行われた調査でも必ずと言ってもいいほど肺がんが1位になる項目があります。それは、「骨転移が認められる患者の原発部位はどこか」という点です。症状の出方は、骨転移そのものなのですが、がんの骨転移が一般に広く知られていない今日の日本では、何カ月も前から増悪してくる痛みを感じていながら、あるとき骨折や下半身不随をきたして病院に担ぎ込まれる人が出てきてしまうのです。このような場合に、原発がんを調べていくと最も多いのが肺がんとなっています。

 がんが先に見つかれば、全身への転移が生じていないかを検査しますので、ある程度骨転移が引き起こす重大な事態の予測も可能です。しかし、骨転移から発症するケースでは、一般の方々にも骨転移の情報が行き届いていなければ、重篤な状態を回避できません。肺がん検診による早期発見に加えて、骨転移対策の重要性は示されていると思います。

 肺がんの骨転移にはいくつかの特徴があります。その1つに、病変の生じる部位が非常に多彩であることが挙げられます。一般にがん骨転移は体幹部分、すなわち脊椎・骨盤・股関節・肩関節周囲に病変を作るのですが、肺がんではしばしば膝より下や、肘よりも先の末梢の骨にも転移病変を作ります。体幹部分の病変ももちろん多いのですが、末梢の骨に出現していたら、我々腫瘍を専門とする整形外科医は肺がんを真っ先に疑うくらいです。

 部位の多彩さは、一つの骨の中でも認められます。つまり、多くのがんでは骨の中心部分の骨髄と呼ばれる部位から転移が生じてくるのですが、肺がんでは、骨の表面近く(骨皮質と呼ばれる部分)に病変を作ることもしばしば観察されます。

 この多彩さと病気の発生当初から骨転移を生じやすいことが、肺がん骨転移の大きな特徴です。病変は乳がん同様、溶骨型と造骨型のどちらの病変も作ります(第6回参照)。骨転移のスクリーニング検査上の問題点はあまりありません。腫瘍マーカー、骨シンチ、PET検査いずれも多くの患者さんで検査法として有用です。

 肺がんは、早期から骨転移を生じることが多いため、治療前に実施したこれらの検査で異常が見つかった場合、骨転移か否かが大きな問題になります。画像上の異常所見が、骨転移でないと判断できるのなら完治を目指した手術が可能ですが、一方で骨転移と判断された場合は、進行期と考えて手術より薬物や放射線による治療を選択します。つまり、転移の有無が完治の可能性を決定する大きな境目になるからです。このような非常に重要な医学的判断となりますので、整形外科にもしばしば相談が寄せられています。

 中には画像検査をいくつか組み合わせても結論に到達できない病変に出くわすこともあります。このような場合では、その病変に骨折や麻痺などの重大な事態が当面発生しないことが確認できたのであれば、完治を目指した肺がんの手術は実施し、その後の経過を見守るなどして柔軟な対応をとることがあります。

 肺がん骨転移の管理は近年大きく変化してきています。骨転移を生じた肺がんでは、従来長い余命は期待できないとされてきましたが、近年では分子標的薬が使用されるようになり、以前では想像もつかないほど長期にわたって安定した状態を保つ方が増えてきました。これらの薬物療法が著効すると、それまで骨破壊を生じていた病変部位に、新しい骨が旺盛に作られて、短期間に骨修復が生じることも稀ではなくなってきました。

 治療成績の向上に伴い近年では、肺がんにおいても乳がんなどと同様に、長期の療養生活を想定した管理を要するようになりました。

 従来、肺がんの骨転移が見つかると、短期間で容態が悪化する患者があまりにも多いため、比較的早期に放射線治療を実施してしまうのが通常でした。放射線治療は非常に有効で、1回治療を終えると、多くの場合2~3年間もしくはそれ以上の期間、再発しないのが通常です。そのため、少し早めに放射線治療を考慮する傾向がありました。

 一方、今日では、薬物治療が奏功して病状が安定していれば、ゾレドロン酸やデノスマブを併用しながら経過観察のみでよいケースが増えました。そのため、痛みが生じる、もしくは骨折や麻痺の危険性が高まってから放射線治療を考慮することが多くなってきています。

 最後に、単発性の骨転移について少し触れておきます。通常、骨転移は多発性に出現しますが、時に全身に1か所しか認められない単発性の場合があります。単発性骨転移は、肺がんに限らず多くのがんで、積極的な切除手術を考慮してよいと我々腫瘍整形外科医は考えています。詳しくは拙著をご参照頂きたいのですが、全身の状態を慎重に判断し、切除手術による障害で毎日の生活に大きな不自由が生じることがなければ、薬物治療や放射線治療ではなく、当初から外科的治療で臨む場合があります。これは、従来、骨転移すれば余命は長くないとされてきた肺がんでも当てはまる考え方となっています。

 このように、肺がん骨転移の管理は、近年のめざましい薬物治療の進歩によって、大きく変化を遂げつつあります。従来のように早めに放射線治療をすれば細かい管理は不要だった時代から、病気の経過をみながら、慎重な管理を要する時代へと移ってきています。肺がん骨転移の管理は、腫瘍を専門とする整形外科医の役割がとくに増してくる領域と考えています。

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橋本伸之 /著 1470円 文芸社
ISBN978-4-286-13355-3 、245ページ

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