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知っておきたい骨転移

2013/12/17

第13回

前立腺がんと多発性骨髄腫の骨転移の特徴と対策

橋本伸之

 前立腺がん骨転移を生じやすいがんの代表です。しかし、主治医により骨転移の検査や治療が比較的スムーズに行われている印象があります。その大きな要因は、造骨型の骨転移となることが多い点や、ホルモン治療が有効な場合が多いこと、鋭敏な腫瘍マーカーがあることなどに関係がありそうです。

 第6回で造骨型の骨転移について紹介したように、前立腺がんの骨転移の多くは造骨型です。病変部分では周囲の健常な骨よりも硬くなるため、骨折リスクは溶骨型のように高くはありません。

 人体の骨はとても素晴らしい性質を持っていて、硬いという物理的特性に加え、力を受けてもたわんで折れないなど弾力性をも持ち合わせています。この性質を真似ようと、人工関節の開発などではさまざまな合金が考案されていますが、なかなかこの物性を忠実に再現することは難しく、現在も研究が行われているほどです。つまり造骨型とは言えども健常な骨より骨折しにくいとまでは言えないのですが、溶骨型に比べれば随分骨折のリスクは低いのです。

 また、全ての方にあてはめることはできませんが、前立腺がんに対するホルモン治療が実施されると、腫瘍マーカーの値が下がり、がん細胞の活動性が抑制されるのが通常です。また悪化した際にも、腫瘍マーカーの値が上昇することが多く、比較的骨転移の管理はしやすいがんと言えるでしょう。骨シンチやPET検査などの画像検査でも、前立腺がんでは「偽陰性」(骨転移があるのに異常所見を示さないこと)の現象が少なく、放射線治療への反応性も高いです。

 骨シンチで病変部がきれいに画像に出現することが多いため、多発する病変で痛みが問題になる際には、ストロンチウム-89(商品名「メタストロン」)によるアイソトープ治療にも適しています。

多発性骨髄症の場合

 多発性骨髄腫は血液系のがんの一種で、普段は免疫を担当している形質細胞とよばれる細胞に起こるがんです。からだの中でこの細胞は、骨髄すなわち骨の中で毎日作られていますので、多発性骨髄腫は元来骨の中に発生するがんです。したがって厳密には骨転移と呼ぶべきではないのですが、骨病変の管理が骨転移のそれと基本原則は同一なので、紹介したいと思います。

 この病気は、骨という共通項があるために整形外科で発見されることが多いがんの一種です。病気の進行が一般的に緩徐であることや、多発性と呼ばれるように多くの骨に病変を作り、骨粗鬆症とレントゲン所見が酷似することから、慢性的な腰痛として当初診られている場合があります。

 全身の多くの骨が脆弱化する傾向を示すため、ゾレドロン酸(商品名「ゾメタ」)の保険適応もいち早く行われました。腎臓の機能障害が生じていなければ、虫歯の治療を済ませて、ゾレドロン酸やデノスマブ(商品名「ランマーク」)の投与が必要です。

 第8回の記事で、骨転移の薬物治療では原発がんに対する薬剤が優先順位が高いと紹介しました。経過が比較的緩徐なことが多い多発性骨髄腫においては、病状により治療を行なわず経過観察のみの時期があります。このときばかりは、ゾレドロン酸やデノスマブによって骨脆弱化を防止する治療が優先されることになります。長い経過の中で、少しずつ全身の骨量が減少していく傾向がありますので、ゾレドロン酸やデノスマブの重要性が高い疾患と言えます。

 病変部位のスクリーニング検査ですが、骨シンチ検査は偽陰性が比較的多く、あまり有用ではありません。異常を示さなかったとしても痛みが続く場合には、PET検査やMRIなど複数の検査で確認することが必要になります。中には、現在も全身のレントゲンを重視するベテラン医師もいます。昔ながらのレントゲンですが、経験豊富な医師はレントゲン写真から多くの情報を読み取ります。

 骨病変は全て溶骨型となり、病変の分布は全身様々な骨に及ぶのが通常です。また1つの骨でも健常部分と病変部分の境界は不明瞭なことが多く、当初骨粗鬆症と類似した画像所見となる一因になっています。

 放射線治療は有効で、骨転移病変の活動を抑え除痛効果も高いのですが、治療後の骨修復は十分でないことが多い傾向です。放射線治療後も痛みが取れず、からだの活動性が十分に回復できない場合、骨の強度を補強するための手術が必要になる場合があります。

 多発性骨髄腫は、病気の進行とともに徐々に全身の骨が脆弱化する傾向があり、現在も長期間の骨病変の管理において、骨量減少をいかに阻止するかが大きな課題になっています。

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橋本伸之 /著 1470円 文芸社
ISBN978-4-286-13355-3 、245ページ

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