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知っておきたい骨転移

2013/09/17

第6回

初期の骨転移および骨転移の種類と特徴

橋本伸之

 多くの場合、骨転移についても、あなたのがん治療を担当する主治医が“見張り役”をしています。残念ながら、骨転移について整形外科で全て管理しているという病院は、全国でもまだほとんどありません。がんは骨以外にも肺や肝臓、脳やリンパ節などに転移をする能力を持つため、転移した部位にあわせて複数の科を受診していたのでは、患者さんの負担も大きくなってしまいます。主治医は、がんに付随する様々な問題を一元的に対処する司令塔の役割を果たしています。

 さて、その主治医から骨転移に関して整形外科に寄せられる相談は、治療方針ばかりではありません。そもそも「画像に何か骨の変化があるのだけれど、骨転移でしょうか?」といった骨転移の存在そのものの判断も寄せられます。

 がんが見つかりこれから切除手術を予定されている方にとっては、「骨の影=骨転移」と安易に判断されると困ったことが起こります。つまり骨転移があるなら進行がん(転移があるため完治は見込めない)と判断されるので、完治を目指した手術はできないと判断されてしまう恐れがあります。とくに初期の骨転移病変は、我々腫瘍専門医でも診断が難しいものです。当院ではCTやMRI拡散強調画像などを詳細に検討し、判断に迷う場合には完治を目指した手術を実施してもらった上で、術後も経過を見守るスタンスで対応しています。これから切除手術が予定されている方の骨転移診断には、腫瘍学の見識がとくに必要とされます。がん診療連携拠点病院に、整形外科の中でも腫瘍を専門とする医師を配置する機運が高まることを期待したいと思います。

 このようにあまりに小さい病変の画像診断は判断が難しいですが、この段階(小さい病変で画像診断で骨転移を判定するのが難しいような段階)では当面の間は、骨転移そのものが人体に及ぼす危険性はありません。つまり転移かどうか結論づけられなくとも、当面の安全性についてはまず診断できます。安全を担保できる場合は、wait & seeなどといい経過を見守る方針をとることがあります。例えば1~2ヶ月後にもう一度画像検査を実施し、病変が大きくなっていたならば骨転移の可能性が高まりますし、小さくなっていたなら骨転移ではなかったと判断されるといった具合です。

 病変がある程度の大きさになってくると、画像診断もしやすくなってきます。ここで骨転移について、代表的な種類を紹介していきます。

 まず骨の破壊のされ方によって、骨を溶かして弱くしてしまう「溶骨型」、正常の骨を破壊しているのですが、逆に硬くなってしまう「造骨型」、この2つの状態が入り混じる「混合型」の3つに分類されます。

 一般に、腎がんの骨転移は溶骨型、前立腺がんは造骨型を示す代表格ですが、乳がんや肺がんなどは患者さんによって溶骨型が主体の方、造骨型が主体の方に分かれる傾向です。その他のがんでは、溶骨型ないしは混合型を示すことが多いと思います。

 このような分類をする理由は、溶骨型の方が、そのほかの型と比べ、骨強度の低下が顕著で、骨折リスクや骨の外にまで病変が拡大して麻痺を生じやすいことと密接に関連するためです。造骨型では骨折のリスクは比較的低いですし、骨外に広がることも比較的少なく、麻痺も生じにくい傾向です。

 次に、骨転移した部位が「荷重骨」か「非荷重骨」かによって、生活への影響度は大きく異なってきます。両下肢の骨・骨盤・脊椎は人体の体重を支える荷重骨です。これらの骨が大きく破壊されると、当然のことながら立つ・歩く・座るなどの基本動作に支障を来します。一方、肋骨などは体重を支えない骨ですから、少々骨転移が生じても人間の活動性にはほとんど影響を与えません。実際、よほどの痛みが生じていないかぎり、転移していてもとくに治療することなく、後述するビスフォスフォネート製剤などで進行を抑える程度ですみます。腕の骨は普通に立っている状態では非荷重骨ですが、しばしば上体を支えることもあり荷重骨とも言えます。生活への影響度は中等度と考え、治療の必要性やタイミングを考慮することになります。

 また骨転移を「体幹部分」と「四肢末梢」で分類することも、骨転移を管理する際に必要となる見方です。大多数の骨転移の発生部位は体幹部分の骨です。すなわち脊椎や肋骨、骨盤に加えて、手足の骨でもせいぜい上腕骨や大腿骨までです。例外的に、肺がんでは、肘や膝よりもからだの末梢側の骨に転移を形成する傾向があります。

 骨転移の頻度は体幹部分の方が高いですから、骨転移の点検をする場合にも体幹部分を重点的に行うのが合理的です。からだの中心部分にある骨ほど大きく、体重を支えるのにより重要ですし、中を脊髄が通っていたり機能的にも重要だったりするからです。

 いつも全身の骨をチェックする必要はなく、体幹部分の荷重骨で溶骨型を示す病変をとくに重視していれば、生活への影響を最小限に抑えることができるという訳です。



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橋本伸之 /著 1470円 文芸社
ISBN978-4-286-13355-3 、245ページ

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