転移・再発乳癌患者に対するファーストライン治療として、S-1とタキサン系薬剤を比較したフェーズ3のSELECT BC試験では、主要評価項目の全生存期間(OS)でS-1の非劣性が示されている。今回は健康関連QOL(HRQOL)の解析結果が発表され、S-1はタキサンと比べてHRQOLで優れ、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は軽度であることがわかった。12月9日から13日まで米国サンアントニオで開催されているサンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS2014)で、国立病院機構仙台医療センター乳腺外科の渡邉隆紀氏が発表した。
転移・再発治療の目標は、生存期間の延長と健康関連QOL(HRQOL)の改善であり、現在の標準的なファーストライン治療はタキサン系薬剤またはアントラサイクリン系薬剤である。ただし、治療に関連する有害事象の発生は患者のHRQOLを大きく低下させる。
SELECT BC試験は、転移・再発乳癌に対するファーストライン治療として、タキサン系薬剤に対するS-1の非劣性を検証することを目的として実施された。対象は、HER2陰性の転移・再発乳癌で、化学療法による治療歴がない患者だった。
治療として、タキサン系薬剤を投与する群(タキサン群)では、ドセタキセル60-75mg/m2を3週毎または4週毎に投与、パクリタキセル175mg/m2を3週毎または4週毎に投与、パクリタキセル80-100mg/m2を3週連続毎週投与・1週休薬のいずれかを、医師の裁量により選択し、増悪(PD)または6サイクルまで繰り返した。S-1を投与する群(S-1群)では、患者の体表面積に合わせて1回40-60mg/m2を1日2回、28日間投与し、14日間休薬するスケジュールで、PDまたは4サイクルまで繰り返した。ファーストライン治療が無効だった場合、セカンドライン治療は標準治療のレジメンの中から選択された。
同試験の主要評価項目は全生存期間(OS)、副次的評価項目は治療成功期間(TTF)、無増悪生存期間(PFS)、有害事象、HRQOL、医療経済効果だった。
主要評価項目のOSの結果はASCO2014で発表された。618人が登録され、生存に関する解析対象はタキサン群286人、S-1群306人だった。観察期間中央値34.6カ月において、OS中央値はタキサン群37.2カ月、S-1群35.0カ月、ハザード比(HR)は1.05(95%信頼区間:0.86-1.27)となり、非劣性マージンのHR1.33を下回り、非劣性が証明された。有害事象の脱毛、感覚性の末梢神経障害、浮腫などの発現率はS-1群で低く、下痢や悪心はS-1群で多く発現した(F. Hara, et al. ASCO2014 abst.1012)。
今回はHRQOLの解析結果が発表された。HRQOLはEORTC QLQ-C30、EQ-5Dを用いて評価し、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は患者用末梢神経障害質問票(PNQ)を用いて評価した。これらの質問票による評価は、治療開始前、試験治療開始から3、6、12カ月後に行った。また、HRQOLを評価するための包括的な評価尺度で、回答結果から「完全な健康=1」「死亡=0」と基準化することが可能なEQ-5Dを用いた評価は、可能な限り6カ月毎に行った。
QOLの解析対象はタキサン群179人、S-1群212人となった。EORTC QLQ-C30による評価では、S-1はタキサンと比べて、全般的健康(Global health status/QOL)(p=0.04)、身体機能(p<0.01)、役割機能(p<0.01)、心理機能(p<0.01)、認知機能(p=0.03)、社会機能(p<0.01)、経済的な問題(p<0.01)、疼痛(p=0.04)において優れていた。
PNQによる評価では、S-1群ではタキサン群と比べて、しびれに代表される感覚性末梢神経障害の症状が軽度の患者が多かった。中等度から重度のしびれ、疼痛、打診痛の累積確率はS-1群で低い傾向がみられた(p=0.053)。EQ-5Dのスコアでは、評価した最初の1年間はタキサン群と比べてS-1群で有意に高い結果だった(p=0.04)。
渡邉氏は「S-1は、non-life threateningのHER2陰性の転移・再発乳癌に対し、ファーストライン治療における新たな標準的治療としてよいと考える」と結論している。