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第80回 「認知症と生活習慣病」で感じること
糖尿病合併の認知症患者をどう診るか

2016/10/21

 この数年、「壮年期に見られる高血圧は老年期の認知症発症のリスクを高める」「糖尿病はアルツハイマー型認知症のリスク因子である」など、認知症と生活習慣病の関連性が提唱されるようになってきました。

 認知症の発症機序の解明あるいは予防の観点から考えますと、とても重要なことであり興味深いことだと思いますが、実際の診療では糖尿病患者さんの診療時に「認知症の発症予防」を取り立てて標的に設定して治療をするわけではないと思います。糖尿病による血管性病変をはじめとする合併症の予防、あるいは高血糖による直接的な侵襲への対策が主な目的となるのではないでしょうか。高血圧も同様かと思います。

 さらに日常診療では、糖尿病や高血圧などの生活習慣病をもつ患者さんが認知症を合併したときに、認知症と生活習慣病を含めた包括的な治療をどうするか、あるいは認知症と診断した患者さんに生活習慣病の合併がみられたときにどのようにそれらを治療するかということの方が、臨床医をより悩ませる問題だと言えるでしょう。今回は糖尿病を持つ認知症患者さんに焦点を絞り、診療のあり方を考えてみたいと思います。

認知症患者さんに見られる糖尿病の頻度
 認知症と診断した患者さんにはどのくらいの頻度で高血圧糖尿病の合併が見られるのでしょうか。図1は私が前に勤務していた病院、図2は現職の認知症疾患医療センターでの健常者ならびにアルツハイマー型認知症(AD群)、血管性認知症(VaD群)における高血圧と糖尿病の頻度を示したものです。アルツハイマー型認知症患者さんに見られる糖尿病の頻度は、それぞれ12.7%、14.4%でした。いずれも健常者に比して大きな差異は認められません。健常者とアルツハイマー型認知症で糖尿病をもつ頻度に大きな違いはないように感じます。

 ちなみに血管性認知症の患者さんにおける糖尿病の頻度はそれぞれ29.3%、27.0%で、アルツハイマー型認知症患者における割合よりも高いですが、今回はこの点については触れません。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

プライマリケア医のための認知症診療講座
2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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 2013年5月から連載を開始した「プライマリケア医のための認知症診療講座」がこのたび書籍化されました。2016年2月末までに掲載された記事を「診断編」「治療と介護編」「周辺症状編」に分類。さらには、日常診療で感じた疑問をすぐに解消できるよう、Q&A形式で再構成しました。
 Q&Aの数は全部で65個。どこから読んでも理解できるよう、1つのQ&Aだけで解説が完結する形に再編集しました。ぜひ日常診療にご活用ください。(川畑信也著、日経BP社、4644円税込み)

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