こんにちは、南東北病院外科の中山祐次郎です。
今回の「切って縫うニュース」は、前回記事「小林麻央さん訃報で感じた医師の言葉のズレ具合」に続き、止まらない小林麻央さん報道に関連した話題をお届けします。
週刊新潮が、2017年7月6日号で「『海老蔵』は三度過ちを犯した!」というサブタイトルのついた記事を掲載しました。メインタイトルは「『小林真央』の命を奪った忌まわしき『民間療法』」というものでした。どうやら小林麻央さんは、診断後すぐに標準治療を受けなかったという記事のようです。
まず、この信じられないサブタイトルをつけた新潮社の編集者に、強い怒りを感じます。「海老蔵」「過ち」「三度」……。こんな刺激的な言葉を連ねれば話題になるでしょうし、雑誌は売れるでしょう。しかし、故人の家族の感情や心情を何とも思っていない見出しだと思いませんか。新潮社には知人もいるので書きづらいのですが、さすがにこの下品な扇情には吐き気がしました。週刊誌には、真実の追求やらジャーナリズムやらという大事な使命があるはずですが、これらすべてに「販売部数」は優先されるのです。
そして、私たちが読者の立場で認識しておくべきことは、この世の中の多くの人は「『海老蔵』は三度過ちを犯した!」という扇情的な見出しに飛びついてしまっている、という事実です。週刊誌の編集者は、我々医師よりもはるかに市場を知っています。人々が求めること、人々が飛びつくものを知っているということです。大衆の秘められた欲望を知っているのです。その彼らが、このタイトルを付けたということは、多くの人にこの見出しが受け入れられ、飛びつかれるという確信を持っているのです。我々が、このような下品な見出しを新聞広告やつり革広告で目にしてしまう原因の一端は、私たち自身にもあるのだということも忘れてはいけません。
閑話休題。癌の医者をやっていると、患者さんからかなりの頻度で次のように質問をされます。
「先生、あの○○ってやつを通販で買ったんだけど、免疫にいいらしいから退院したら飲んでもいいかね」
「抗癌剤をやりながら、民間療法を受けたいんだけどどうですか」
結論から言います。私は、次のように答えています。
「あんまり効果は期待できないかもしれません。でも、やりたいならやっても構いません。その代わり、とても高価なものはやめておきましょう」
医師であれば、十分な根拠のない「民間療法」のたぐいは、時間とカネの無駄になる確率が高いと考えて当然です。そして現時点で最良の治療とは、癌のガイドラインに載っているような「標準治療」です。標準治療は、最も強い根拠がある治療法であるのはもちろんのこと、専門家たちに最もよく検討され、学会などで時間をかけて議論され続けているものだからです。
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著者プロフィール
2006年鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院外科で初期・後期研修後、同病院で大腸外科医師(非常勤)として勤務。2017年4月から総合南東北病院外科に勤務。消化器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医、マンモグラフィー読影認定医。
連載の紹介
中山祐次郎の「切って縫うニュース」
世の中の医療・医学に関連するニュースを、若手外科医がバッサバッサと斬りまくり。でも、社会の病巣にメスを入れるだけでなく、切ったところをきちんと縫うのも外科医の仕事。だから「切って縫うニュース」。きれいに縫えるか、乞うご期待。
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