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大震災の現場から Vol.29
被災した医療機関に「震災特別医療法人」の認定を
福祉医療機構の低利の貸し出しでは不十分

2011/04/15
立命館大教授(医療経済学) 柿原浩明

 私は4月3日から5日にかけて、日本医師会災害医療チームJMAT)の一員として、福島県いわき市に京都府医師会より派遣されて医療支援に入った。医療経済学者として、医師としての医療支援+αのことも考えられるかもしれないという思いからであった。4月3日には、いわき市は一時の混乱期を抜けていたようで、コンビニエンスストアやファミリーレストランが既に営業を開始していた。また、役目を終えて閉鎖される避難所が出たり、避難所から仕事や学校へ向かう人も増えるなど、徐々にだが日常を取り戻しつつあった。必然的に昼間に行うわれわれの避難所への医療支援は、交通手段がなく動けない年配者が中心となった。

1987年京都府立医大卒。同大大学院、京都大大学院経済学研究科修了。博士(医学)修士(経済学)。京都第一赤十字病院、洛和会音羽病院などを経て、2002年より現職。医療経済について教育・研究する傍ら、内科臨床にも従事している。

 そんな中で一番気になったのは食事だ。避難所には多くの食料が届けられ、自由に食べることができ、カロリーとしては十分量が供給されていた。だが、その多くは塩分が強いスナック菓子やおにぎりなど。カロリーは十分でも、強いストレスに暴露されているためもあり、高血圧患者さんの多くは血圧が30mmHg程度、平時よりも高かった。

 また、東北人は我慢強いといわれており、外の医療機関から入った医師に体の不具合を必ずしも伝えておらず、十分に診察しきれていない印象も受けた。この問題を解消するためには、地元の医療機関への送迎ボランティアを増やすべきではないだろうか。

 現在は地域の医療機関が機能を取り戻していても、必ずしも活用されていないのが実情だ。送迎ボランティアは地域の医療機関にとってもプラスになる。医療ボランティアが避難所でのみ診察を行っていると、地元医療機関の経営が成立しないからだ。

 現在、避難所で生活を余儀なくされている人は、住宅の全半壊や原発避難区域の方と考えられるため、窓口での医療費負担の免除が適用される。既存の医療機関に送ることで、患者負担が増すわけではないため、患者にとってもマイナスとなることもないだろう。

 もう一点気になっているのは、被災した医療機関の立て直しだ。被災した医療機関は職員を解雇できないで、毎月の給与を支払っている。このままではいつか倒産してしまう。需給バランスを考えると、医師・看護師ともに一度解雇してしまえば二度と集められないのが分かっているからだ。

 旧知の星総合病院(福島県郡山市)では、被災により一旦病床を閉鎖せざるを得なくなり、入院患者を他の病院に転送した。転送先の病院では医師の手が足りないため、そちらに移って医療活動を行っている。ところが、現状では診療報酬が入るのは転送先の病院であり、病床を閉鎖した病院では診療報酬が入らないままに人件費を負担する形となっているという。

 これらを解決するには、福祉医療機構による低利の貸し出しだけでは不十分だ。少なくとも特定医療法人や特別医療法人、社会医療法人など、設立者や社員などに特別の利益を与えることが許されていない医療機関の立て直しに対しては、国が早急に全額補助をすべきだろう。

 個人病院など個人の持ち分のある医療機関においても、なんらかの補助が必要だ。ただし、個人財産に対する国からの全額補助では、国民からの支持が得られるとは思えない。そのため、ともかく緊急に貸し付けを実施し、その後、例えば解散時の残余財産帰属権が国にある「震災特別医療法人」に移行することを条件に、返済免除するというのはどうだろうか。地域の医療提供体制に影響を及ぼす被災医療機関については、自治体や国が施設を復旧し、運営は医療法人などが行う「公設民営」の形を取るという方法もあるかもしれない。

(まとめ:山崎大作=日経メディカル オンライン)

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