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被災地での妊婦さんケア 3つのキーポイント
被災地の妊婦さん、産褥婦さんを助けたい

2011/04/21

 震災後、現地の妊婦さんや産褥婦さんがどうされているのだろうと気がかりで仕方がありませんでした。いくつかの団体の派遣医師リストに登録したところ、日本プライマリ・ケア連合学会の東日本大震災支援プロジェクト「PCAT(Primary Care for All Team)」より声を掛けていただき、4月1日から3日間宮城県気仙沼市に行ってきました。

ノーリスクの妊婦さんは1人もいない
 私に与えられたミッションは、被災地での母子保健の現状把握と妊婦さんや産褥婦のニーズの掘り起こしでした。PCATの先遣隊として現地入りした藤岡洋介先生、綱分信二先生は南三陸町や石巻市の避難所を回り、9人の妊婦さんから詳細な問診を取り、リスク評価をされていました。また、石巻赤十字病院の協力を得て、分娩予定病院が流されてしまった妊婦さんの分娩を扱っていただけるようにし、お産の場所を確保されていました。

 「ローリスクの妊婦さんはいても、ノーリスクの妊婦さんは1人もいない」というのが産婦人科医としての私の持論です。妊婦検診などが十分にできない被災地に行き、妊婦さんにお会いして何が必要なのかを聞いて来なくては、と被災地に向かいました。

 東北自動車道を降りてからは、路面の状態が悪く、渋滞する道路を走ります。東京を出てから8時間ほどで石巻市の宿泊所に到着し、先に来ていたチームの先生方と遅い夕食を取りながら情報共有と引き継ぎをしました。

 翌朝は、宮城県庁の医療・福祉分野の行政官に会うため、宿舎を早く出発しました。途中で何度も道に迷い、ガソリンスタンドに並び、2時間ほどかかって宮城県庁に到着しました。運よく、到着した直後の10時から「宮城県災害対策本会議」があり、大きな会議室で宮城県の各界の代表やメディアの方々が県知事の現状報告を聞いていました。私も資料をいただき、傍聴させていただきました。

まず「宮城県災害対策本会議」を傍聴しました

 いただいた資料は、混乱する被災地の全体像を把握するのに役立ちました。特に「他自治体からの医療救護班派遣・活動状況」という資料に、各避難所における医療チームの分担や滞在予定がまとめられていたのが、私には参考になりました。

 その後、医療整備課や子育て支援課の課長さんに、妊婦検診や分娩機関の状況を伺い、産後訪問について意見交換をさせていただきました。4月2日の時点で、県内の妊婦さんの現状を把握する手段、つまり市町村役場や保健師さんといった情報ルートは断絶されていましたので、私がPCATから託された9人の妊婦さんの問診情報は大変喜ばれました。この意見交換を通じて、仮設住宅への移動や産後ケアなどの施策について、被災地の妊婦が実際に何を求めているのかを、掘り起こして直接お伝えすることが必要だと痛感しました。

 ここではまた、被災後、ガソリン問題などのために途絶えている妊婦さんや産褥婦さんへの訪問検診を再開すること、そのためのマンパワーの確保、被災地に留まらざるを得ない妊婦さんのために、病院の近くにある仮設住宅に産前産後を家族と過ごせるシェルターのような宿舎を提供することなどを提案し、その重要性について合意をいただくことができました。

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著者プロフィール

吉田穂波(ハーバード公衆衛生大学院リサーチフェロー)●よしだ ほなみ氏。1998年三重大卒後、聖路加国際病院産婦人科レジデント。01年名古屋大学大学院。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、08年ハーバード公衆衛生大学院。10年より現職。

連載の紹介

吉田穂波の「子育てしながらハーバード留学!」
米国ハーバード公衆衛生大学院で疫学の研究に従事する吉田穂波氏が、日米を往き来しながらの研究生活、子育て、臨床現場への思いなどを、女性医師として、産婦人科医として、4人の子の母親として、肌で感じたままにつづります。

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