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米国の医学生として帰国し、母国の医療に驚き

2011/04/21
大内啓

ジョージタウン大学医学部のwhite coat ceremonyにて。アメリカの医学部に入学すると、医師になる道に入った証として、入学生1人ずつが先輩医師から白衣を着せてもらうという式があります。入学生の家族や友人も集まり、門出のお祝いをしてくれます。

 私は大阪生まれですが、家族の都合で12歳のときに渡米し、アメリカで教育を受けてきた日本人です。見かけや言葉は日本人ですが、考え方についてはアメリカでの教育の影響が強いと思います。日本のことは外から見てきた部分が多く、よく分からないこともままあります。現在はアメリカで救急と内科のダブルレジデントをしており、医療格差や医療システムにとても興味を持っています。そんな私が今までの学生・医師としての経験から感じたことを、日本の皆様にお伝えしていきたいと思います。

 アメリカの医学部4年生には、自分の進路選択のため、数カ月間、自由選択の実習をする機会が与えられます。私の進路選択については医療格差の問題が関係してくるので、次回以降でお話ししたいと思いますが、私はこの自由選択の実習期間の一部を自分の母国である日本の医療を学ぶことに使ってみようと思いました。もちろん、日本に医療関係の知人はあまりいなかったのですが、唯一の親しい友人(ボストンで研究をしていたときに留学に来ていた感染症医で、今でも日本の医療に関することをいろいろと勉強させてもらっています)の協力を得て、環境的に大きく違う都内の病院4カ所を、3カ月かけて回ることができました。

 当初は「日本もアメリカも先進国だし、医療のレベルは同じだろう」という印象を持っており、「多分、将来日本に帰って働くことになっても大丈夫だろう」という軽い認識でしたが、さにあらず。お国柄や保険制度の違いが医療のプラクティスを大きく変えていることを実感し、自分の勉強不足と認識不足を痛感させられる新鮮な体験となりました。まずは、このときの経験から、アメリカでは考えられないこと、驚いたことをお伝えしたいと思います。

正月に家に帰る入院患者?
 まず私が驚いたのは、日本の病院における軽症入院患者の多さです。たくさんの患者が病院の中をパジャマ姿で歩き、コンビニに行ったりテレビを観たりと動き回っています。基本的に私の大学病院または現在勤務する病院では、1人で歩いている患者にはなかなか出会いません。

 アメリカで廊下を歩いている患者は、理学療法士に付き添ってもらってリハビリに励んでいる人、自分のケアに対して不満を持ち医師に抗議するため部屋から出て来た人、薬物・アルコール依存症や精神疾患で目が離せず、看護師の眼が届くところまで出されている人くらいです。

 アメリカでは、病気で弱っている患者については、安全のために「見張り係」の看護助手が付けられます。こうした患者の1人歩きを許して事故になると、訴訟に発展する可能性が高いからです。歩けるほど健康で検査の合間に暇を持て余している患者は、1日中病院を走り回っていても、ほとんど目にすることがありません。

 あまり重篤な状態ではなく、「入院する必要が本当にあるのか?」と思える患者はアメリカにもいます。ところが日本では、そういった患者がとても多いと感じました。若くして肺炎で入院している人もいれば(アメリカでは、よほどのことでない限り外来治療です)、手術の数日前から検査のために入院している人もいます。入院に対する概念が、日本とアメリカの医療では根本的に違うという印象を持ちました。

 例えば、アメリカの医療者はとにかく入院日数を減らそうとします。その理由は、(1)不必要な入院をさせると入院費が病院負担となる(保険会社や公的保険が「不必要な入院」と判断した場合、または病気に応じてある程度規制されている入院日数を超えた場合)、(2)入院日数が長いほど悪いこと(院内感染や事故)が起こる確率が高い、(3)軽症患者の入院は病院の限られたリソースの無駄遣いになる――といったことでしょう。

著者プロフィール

大内 啓

North Shore - LIJ Health System 救急医学科・内科レジデント

大阪府生まれ。12歳で渡米し、2009年ジョージタウン大学医学部卒業。マンハッタン郊外のLong Island Jewish Medical Centerにて、救急医学科/内科の二重専門医認定(全米で年23人限定)を取得するレジデントとして勤務。医療の格差や効率性、提供方法に関心を持っている。趣味はランニング、お酒、息子と遊ぶこと。

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