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透析患者の冠動脈疾患、発症時に症状なしが6割も

2011/06/18

群馬大学医学部附属病院循環器内科の中野明彦氏

 透析患者では冠動脈疾患の合併が多く認められるが、その発症に際して典型的な症状を呈する場合は少ないとされる。群馬大学医学部附属病院の中野明彦氏(写真)らは、経皮的冠動脈インターベンションPCI)を施行した透析患者の中で、PCIに至るまで典型的な症状のなかった患者は6割に上り、冠動脈疾患が発見されたきっかけとして最も多かったのは心電図の経時的変化だったと、横浜で開催されている日本透析医学会(JSDT2011)で報告した。

 透析患者は、体重増加(溢水状態)、透析中の血圧低下、腎性貧血など、冠動脈疾患を起こしやすい条件を併せ持つ。実際に冠動脈疾患の発生率も高いが、冠動脈疾患発症時に典型的な症状を示さない症例、あるいは非典型的症状(心不全症状、不整脈、透析中の血圧低下など)を呈する症例も多い。運動負荷心電図は実施困難である場合がほとんどで、冠動脈病変の診断が遅れがちになる。診断のきっかけとなるような所見はないのか――。中野氏らは、PCIを行った透析患者で「きっかけ」を検討した。

 対象は、2008年1月~2010年10月に、同科でPCIを実施した他院透析患者74人。平均年齢66.4歳、男性70%。初回PCIまでの透析期間は平均6.2年だったが、中央値は3.6年で、25%が1年以内だった。2~3枝または左主幹部病変が62%を占めたほか、急性冠症候群が16%、陳旧性心筋梗塞の既往も35%に認められた。

 冠危険因子として、高血圧(92%)、糖尿病(61%)、喫煙(歴)55%などが高率だった。また糖尿病腎症を合併する症例は非合併例に比べ、多枝病変が多く、透析導入からPCIまでの期間が短かった。

 PCIに至った重症心虚血発見時の症状の有無を見ると、症状のあった症候性症例は41%に留まり、残りの59%は無症候だった。症候性症例では、労作性狭心症が60%、不安定狭心症が33%で認められ、急性心筋梗塞は少なかった。

 一方、無症候の症例で重症心虚血発見のきっかけを見ると、心電図上の変化が57%と最も多く、以下、合併疾患(不整脈、心不全、末梢動脈疾患、肺高血圧症)の精査30%、心エコー所見18%、透析中の変化11%、虚血の既往11%と続いた。心電図変化をさらに詳しく調べると、安静時または透析時の経時的変化が76%を占めた。

 症候性の群と無症候の群で背景因子を比較したが、年齢、男女比、透析歴、陳旧性心筋梗塞・虚血性心筋症の既往、多枝病変の有無、糖尿病性腎症の有無、末梢動脈疾患の既往、冠動脈疾患の既往のいずれも、有意差は認められなかった。

 ただし、透析施設における患者管理体制では、両群間で差が見られた。無症候の群では、循環器医が常駐し疑いがあれば必ず心電図をチェックしている透析施設の患者が、一般内科医が診察している透析施設の患者よりも多いという結果が得られた。

 以上より中野氏は、「透析症例、特に糖尿病腎症を有する症例では、早期にPCIに至る可能性を意識し、症状にとらわれることのない積極的な循環器合併症へのアプローチが必要だ」と指摘した。

(日経メディカル別冊編集)

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