日経メディカルのロゴ画像

NEJM誌から
危機的状況においてソーシャルメディアが公衆衛生に果たす役割とは
健康関連コンテンツの信頼性を評価するときが来ている

 ソーシャルメディアは、一般市民が公衆衛生活動に参加する機会を一気に拡大した。人々の健康を脅かす危機的な事態が発生したとき、市民によるソーシャルメディアの利用は、行政当局など公的機関が公表した情報を広めるために、また現場の人々から情報を引き出すために役立つ。こうしたアプローチをあらかじめ公衆衛生活動の中に組み込んでおけば、将来発生する緊急事態への備えはより強固なものになるだろう。米Pennsylvania大学のRaina M. Merchant氏らは、NEJM誌2011年7月28日号のPerspectiveで、過去の実例を示しながら、様々なソーシャルメディアの公衆衛生活動における可能性を示した。

 11年の初めに起きたエジプトでの騒乱は、ソーシャルメディアを利用して呼びかけられたデモに始まり、インターネットを使った外国との通信を国家が遮断する事態になった。しかし、国際電話を使った音声接続によりハッシュタグ付のツイートを送信できるサービス「Speak to Tweet」が提供されたため、人々の安全と健康を守るための情報交換が継続できた。

 10年のハイチ地震後は、アフリカ発祥のオープンソース・ソフト「Ushahidi」が危機管理に重要な役割を果たした。被災者の治療に携わる医療従事者と、彼らが必要とするものを提供できる人々を結んだからだ。また、Facebookは、がれきの下からの助けを求める声を救援隊に伝え、ボランティアとして被災地に入った医療従事者が必要とされる場所にたどり着くことを容易にした。

 09年の新型インフルエンザのパンデミックの際には、米国バージニア州Alexandriaの保健局が、ワクチン接種の開始をソーシャルメディアを通じて告知したところ、数分後には医療機関に接種希望者が押し寄せた。

 米保健福祉省は、Mommycastを利用してYoutubeで視聴あるいはiTuneのビデオポッドキャストからダウンロード可能な動画を配信し、約100万人の視聴者に、何が起きているのか、何が予想されるのか、どのようにすれば感染拡大を阻止できるのかなどを伝えた。新型インフルエンザの登場から1年の間に、米疾病予防管理センター(CDC)のTwitterサイト「emergency profile」のフォロワーは6万5000人から120万人に増えた。また、CDCはオンラインアプリケーション(ウィジェット)を用いて、信頼性の高い健康情報の提供を開始した。

 07年のバージニア工科大学での乱射事件の際には、米国赤十字がオンライン掲示板を立てて、被害に遭った可能性のある学生に関する情報を共有するためのフォーラムとして利用した。

 ソーシャルメディアは人々の日常的なコミュニケーションに変化をもたらしただけでなく、人々の健康を脅かす災害などの際の情報伝達の方法を変化させた。これを積極的に利用すれば、危機管理にかかわる医療従事者や公衆衛生担当者などが災害に対処しやすくなると考えられる。

 公衆衛生システムの緊急時対応の有効性を高めるためには、(1)日常的な準備を怠らない(2)日々の小さな問題にも突然発生する大災害にも、迅速かつ適切に反応する能力を持つ(3)災害後に速やかな回復を促進する戦略を用意しておく―という3段階の備えが必要だ。ソーシャルメディアは、これら3段階のそれぞれを補強することができる。

この記事を読んでいる人におすすめ