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患者のクレーム不当、医師側が勝訴

2007/08/14

 7月24日の毎日新聞に「患者の請求不当―医師側の慰謝料認定」という珍しいニュースを知りました。千葉県のとある街の話です。耳鼻咽喉科開業医が67歳の男性患者に対して、適切な治療をしたにもかかわらず、不当な損害賠償を要求されたとして、男性患者に200万円の慰謝料を求めた訴訟の判決言い渡しが7月23日千葉地方裁判所であり、判決は「治療は適切で、金銭の請求に正当性はない」とし、男性患者に30万円の支払いを命じたというのです。

「170万円を支払えば話は終わる」
 医療過誤が認められて、「損害賠償、いくらいくら支払え」という判決のニュースは毎日のように目にしますが、患者のクレームが不当だなどとして医師側の慰謝料が認められるケースはほとんど見たり聞いたりはしません。判決によると耳鼻咽喉科医は2006年5月に、男性患者が耳を虫に刺されたと訴えて受診した際、帯状疱疹と診断しましたが、その後、男性の顔面に神経麻痺が生じたところ、男性は治療が不適切だったとして、この耳鼻咽喉科医に約20回にわたって「170万円を支払えば話は終わる」とする文書を送付したのだといいます。裁判所は、「帯状疱疹との診断や治療薬の選択は適切で、医師は金銭を要求する文書の送付などで相当程度の畏怖を感じた」と指摘し、男性患者のクレーム行動を不法行為と認め、30万円の慰謝料の支払いを男性患者に命じたわけです。
 
 このような患者から医師へのハラスメントが不法行為として慰謝料が認められるバックグラウンドには、何でもかんでも治療結果が気に入らなければ「医療ミスだ」とアクティング・アウトする患者が増加する傾向があるように思われます。インターネットの相談サイトなどをのぞいていると、「医者にかかったが、改善しない。これは医療ミスに違いないと思うのだが、どうでしょう」というような書き込みにずいぶんと遭遇します。そのような相談者の口吻(こうふん)からは、「医者は人間修理工場の修理工で、ちゃんと修理できないのはミスなのだ」という感覚がはっきりと見て取ることができます。

クレーマーに悩む医療界と教育界
 これは格別医療の世界に限ったことでなく、教育界でも尋常ならざるクレイマーが「モンスターペアレント」と呼ばれて、とても常識では考えられないようなクレームを学校にぶつけてくるので、学校関係者は弁護士を顧問に依頼したりと、神経質に対応せざるを得ない時代になってきています。病院もフーリガン患者のクレーム対応や院内セキュリティ確保に警察OBを利用するところも増えています。事態は訴訟というよりも、日常の業務妨害行為や刃傷沙汰を防ぐレベルにもなっているのが現実です。教育界もモンスターペアレントへの対応に心を病む教員が増えているようですが、病院でも尋常ならざるクレーマーにバーンアウトする担当職員がいたり、実際に刃傷沙汰で被害を受けるケースもしばしば報道されます。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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