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ライブ手術で患者死亡、その光と影

2007/06/12

心臓外科医の研修を目的としたライブ(実演)手術で昨年9月、患者が死亡する事故があったことが分かり、新聞各紙で報じられました。

 このライブ手術を企画したのは、若手心臓外科医を中堅アクティブらで育てようと設立された「CCT Surgical」です。その役員を見ると、大学から市中病院まで第一線で活躍中の心臓外科医が並んでいることが分かります(「幹事・役員リスト」)。

 このCCT Surgical自身の発表(「CCT Surgicalにて生じた死亡症例に関して」「CCT Surgicalにて生じた死亡症例に関して(第2報)」によると、昨年9月に開催されたライブ手術カンファレンスCCT Surgicalのプログラムの中で、豊橋ハートセンターから中継された解離性胸腹部大動脈瘤の手術で、手術中に重篤な合併症が発症し、術後2日目に患者様がお亡くなりになる事例が生じたとのことです。

 手術は下行大動脈、腹部大動脈置換と肋間動脈、腹部分枝再建が完遂されましたが、その操作中、それまで健常と思われた弓部大動脈から上行大動脈にかけて逆行性解離が生じ、それに対して急きょ、大動脈基部置換、上行・弓部置換が引き続き施行されました。しかし、解離が左冠動脈にまで及んでいたため、心不全のため死亡したというものです。

 昨年9月27日に出されたCCT Surgical自身の第一報は、以下のように総括しています。「この合併症が発症するまでの手術は、出席者200人以上のライブ会場に放映されており、その手術内容および執刀医の経験量・力量・準備状況に対してCCT Surgicalの世話人として、なんら懸念はありませんでしたが、ライブ手術はその性質上、究極の情報公開であり、今回起こりました事例に関して、事実確認、手術も含めて周術期患者管理の妥当性、そして再発防止について、第三者委員会にて公正に評価を仰ぐことが必要不可避と考えております。その事が今後のライブ手術カンファレンスの方向性を今一度明確に認識するとともに、本来心臓血管手術に内包する危険性をどう認識し、対処し、不幸にして発生した最悪の事態をどう受け止め、対応するかの一つの回答を模索し、提示することにつながると確信しており、それがわれわれ世話人の責務かと考えております。 

 具体的には、日本心臓血管外科学会 高本眞一理事長に報告、相談し、調査を依頼いたしました。2006年10月1日に開催される日本心臓血管外科学会 医療安全管理委員会(上田裕一委員長)で構成員、調査方法等の対応を決定のうえ調査が行なわれますが、その進行状況等CCTSurgicalへの通達事項はすべて本ホームページで掲載する予定です」。

 今回新聞報道された日本心臓血管外科学会の対応については、既に本年2月に「CCTライブ調査委員会報告書概要」としてサイトで知ることができます。詳細はそちらに譲りますが、その報告書は結論として、「日本心臓血管外科学会をはじめ、関連諸団体がライブ手術カンファレンスに関するガイドライン作成などを行うことにより、医療の安全性と透明性がさらに向上することを期待するものである」と中間総括を行っていることを書いておきます。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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