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セクハラ?診察?―学校健診の曲がり角

2007/07/13

 当地北海道の道立高校での「事件」です。北海道新聞の報道によると、札幌市内の道立高校が5月中旬に行った内科健診で、女子生徒約120人が「(大学病院から健診の応援に来た30歳代の)男性医師に乳房をつかまれた」と訴えたため、健診を中断し、この混乱で学校保健法が健康診断の期限とする6月30日まで健診を終えられない事態となったということです。

 高校と道教委によると、内科健診は2日間の日程で、初日は1年生全員と3年生の半数の計450人が対象に、大学病院からの応援医師(協力医)3人と学校医の計4人で診察し、協力医の男性医師1人と女医1人が女子生徒を担当しました。健診後、女子生徒から養護教諭や担任に「(男性の協力医に)右手で聴診器を当てている時に左手で胸をつかまれた」「ブラジャーを外された」などと苦情が続出したため、学校は2日目の健診を延期した上で、この男性医師が診た女子生徒にアンケートを実施したところ、1年生120人のうち90人と3年生の34人全員が不快な思いをしたと答えたといいます。

 同日、学校から相談を受けた学校医が、大学病院の医局を通じて男性医師に事情聴取したところ、心尖部の心音を聴くため、ブラジャーを外したり、乳房を持ち上げたりした。短時間で行うため、聴診しながら同時に胸郭のゆがみを調べる触診もしたということで、この医師は他校の健診で問題になったこともなく、胸郭異常のチェックは健診範囲と定められていることから、他の医師より丁寧に診察したことが誤解を生んだという結論になったそうです。

 一昔前ならばここで一件落着かもしれませんが、今の時代、事態はさらに進みます。学校側は、検診の2日後、臨時全校集会で校長が「校内において不安で不愉快な思いをさせて申し訳ない」と謝罪し、「(医師は)大学病院勤務で、学校健診は不慣れだった」と説明した上で、ショックを受けた女子生徒に専門家によるカウンセリングを受けさせました。また、6月末まで健診が終わらず、7月にずれ込んだことについて、教頭が「申し訳ない」と謝罪し、「今後は女子生徒の感情に配慮するよう学校医から協力医に事前に話してもらう」とコメントしていますが、逆に学校医は「学校のアンケートが混乱を大きくした。正当な医療行為だと生徒や保護者に説明することが先だった」と学校の対応を批判して、6月15日に辞表を提出しています。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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