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【終末期ケア 2】
どうする? 延命治療の拒否に難色示す患者家族

2012/02/28

 前回は、終末期ケアの入り口として避けることができない「悪いニュースの伝え方」についてお話ししました。今回はその続編として、悪いニュースが“確定”した後の家庭医の役割をテーマに話を進めたいと思います。

家庭医だからこそ緩和ケアを早期に実施できる
 末期の肺癌で早期から緩和ケアを実施すると、生活の質が向上し抑うつ気分が起こりにくくなるだけでなく、終末期に積極的なケアを必要とすることも少なくなり、かつ余命も伸びることを示唆した研究があります(Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, Gallagher ER, Admane S, Jackson VA, Dahlin CM, Blinderman CD, Jacobsen J, Pirl WF, Billings JA, Lynch TJ. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010 Aug 19;363(8):733-42)。

 研究デザインや対象が末期の肺非小細胞癌という制限があるとはいえ、この結果は直感的には非常に理解しやすいものです。緩和ケアをできるだけ早い段階、特に症状のない段階から導入することが重要であることを示しているといえるでしょう。

 実際、私も、緩和ケアはできるだけ早期から実施すべきだと考えています。また、緩和ケアを早期に導入するカギは、家庭医が握っていると思っています。それは、以下の三つの理由からです。

(1)患者・家族へ幅広い医療を提供する窓口となっている
 癌治療の進行中に、癌以外の問題についても対応できるのが家庭医です。癌そのものの症状が出ないうちから今後出現しうる症状に対して備えることができますし、気になる症状について気軽に相談を受けることもできます。患者さんがそれほど気にしていない変化の中に癌に伴うものが発見できれば、その時点で早期の対応が可能です。また、そうした変化が癌に無関係であれば、患者さんに安心を与えながら、家庭医の幅広い対応能力の中で解決を図ることもできます。

(2)患者と家族のことをよく知っている
 患者さんは症状をあまり訴えないタイプなのか、家族はどれぐらい患者の症状を観察しているのか―。患者の性格や家族との関係など緩和ケアにおいて重要になるポイントを、家庭医は普段の診療の中で把握しています。この点では、患者さんに困った症状が出てから紹介を受ける緩和ケア医より多くの情報を持っています。もちろん家族のケアも普段から行っているので、家族の健康面の変化にも気付きやすく、予期悲嘆などの把握と迅速な対処の面でも、重要な役割を担えます。

(3)たくさんの職種をつなぎ、ケアをコーディネートすることに慣れている
 精神科医や臨床心理士、理学療法士、栄養士、歯科医など、癌の終末期に伴う症状には多数の医療提供者のかかわりが必要となり、チームとして対応が望まれます。家庭医は普段からこうした多職種チームのハブとして機能しているので、緩和ケアを提供する際にも違和感なくその実力を発揮できます。情報を集約し、患者の理解と判断を助ける援助を行い、また、終末期に伴うさまざまな感情に対応することは家庭医の得意とするところです。

 では、前回の記事で大腸癌が疑われた患者Kさんを例に挙げながら、診断確定後の終末期ケアにおける家庭医の役回りを紹介してみたいと思います。

著者プロフィール

小嶋 一(手稲家庭医療クリニック院長)●こじま はじめ氏。2000年九大卒。沖縄県立中部病院などを経て03年渡米。ピッツバーグ大学関連病院勤務。米国家庭医療専門医、公衆衛生学修士。08年手稲渓仁会病院。09年より現職。

連載の紹介

【臨床講座】家庭医の作法
どんな時でもまずかかってもらえる医者、それが「家庭医」。住民には心強い存在であり、医師不足対策への処方せんにもなり得ます。本連載では、実例などを盛り込みながら、家庭医の果たすべき役割を考えていきます。

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