日経メディカル オンラインの読者のみなさま、はじめまして! 井出広幸です。この連載では、内科医であるわたしが、みなさまの日常診療にすぐに役立つ「こころの診かた(心療)」のコツを伝授いたします。
「うちのクリニックは、精神科や心療内科じゃないから、精神疾患の患者なんて来ないよ」とおっしゃるかもしれませんが、実は、プライマリケア医が毎日診ている外来患者の30~40%は、何らかの精神疾患を持っているとも言われています。あなたが、不定愁訴症候群、自律神経失調症などと呼んでいる患者の心理コンディションを正しく評価してみると、これまで見逃してきた「こころの病気」が見つかるはずです。
本連載では、PIPC(Psychiatry in Primary Care)と名づけられた心療のためのツールを使いながら、内科医やプライマリケア医が日常診療で遭遇する機会の多い精神疾患への適切な対処法を学んでいきたいと思います。
■「心療」の入口となるもの
わたしたち内科医は、「医学的に説明のつかない身体症状」によく遭遇します。例えば、循環器内科の外来に動悸を主訴として受診した患者のうち、心臓に異常のない患者は少なくありません。消化器内科医たちは、心窩部の不快感を訴える患者に内視鏡検査を実施しても、その症状を説明しうる病変がみつかることの方が珍しいことをよく知っています。
多くの医師たちは、生命に危険が及ぶような疾患を除外できた時点で「任務終了」と考え、患者には「どこも悪いところはないので様子をみましょう。それでも症状が続いたらまた来てくださいね」などと伝えます。
でも、その患者が「良くならない」と訴えて、また外来へやって来たら、あなたはどうしますか? 実は、そこが内科医にとっての心療の入口となるのです。
■「医学的に説明困難な身体症状」を見逃さない
何らかの身体疾患が存在するかと思わせる症状が認められるのに、適切な診察や検査を行っても、その原因となる疾患が見出せない病像のことを、「医学的に説明困難な身体症状(medically unexplained symptoms:MUS)」と言います。