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“腸管”が動脈硬化予防の新たな治療標的に

2012/07/23

神戸大学の山下智也氏

 腸管免疫修飾による新たな動脈硬化予防法の開発が加速している。神戸大学の山下智也氏は、7月19、20日と福岡で開催された第44回日本動脈硬化学会(JAS2012)のシンポジストとして登壇。これまでの研究成果をレビューし、“腸管”が動脈硬化予防の新たな治療標的になりうることを示した。

 山下氏らの研究グループは、「動脈硬化性疾患の発症予防のための抗炎症免疫療法を確立し臨床応用すること」を目指し検討を進めてきた。動物実験により、少量の抗CD3抗体あるいは高用量の活性化ビタミンD3をアポE遺伝子欠損マウスに経口投与することで、腸管において、免疫抑制機能を持つ制御性T細胞と免疫寛容性樹状細胞を増やし、その結果、動脈硬化が抑制できることを発見した。

 また、ω3不飽和脂肪酸製剤であるイコサペント酸(EPA)経口投与により、いったん形成された動脈硬化巣が退縮することも見いだした。これは、LDL受容体遺伝子欠損マウスにおいてEPA効果を検討した実験結果で、EPA経口投与により動脈硬化巣が退縮した。その機序には、腸管と脾臓の樹状細胞におけるトリプトファン代謝分解酵素(IDO)の高発現と、Tリンパ球増殖抑制が関与していることも明らかになっている。

 一方で山下氏らは、腸内細菌叢のパターンによる疾患罹患性の変化に着目した検討も進めているという。腸内細菌叢と疾患罹患性の関連性、および腸管免疫の調節とをあわせて解明することは、「新たな治療ターゲットの創出につながり、腸管免疫修飾治療法の確立につながりうる」(山下氏)との考えに拠っている。

 ただ検討すべき点も多い。腸管免疫の修飾により増加した制御性T細胞と免疫寛容性樹状細胞が全身の動脈硬化を抑制する機序の解明は、緒に就いたばかりだ。とは言え、まったく新しい切り口で動脈硬化予防に迫ることは、既存の治療法のアプローチでは盲点となっている未踏の領域を切り拓く可能性もあり、腸管免疫修飾の臨床応用への期待も高まっていくに違いない。

 山下氏は講演の最後に、(1)腸管免疫修飾によって動脈硬化予防が可能である、(2)腸内細菌叢を変化させることでも動脈硬化が予防できる可能性がある、(3)プラーク退縮の機序の解明により動脈硬化プラークの破綻を予防できる可能性があり、二次予防として期待されると指摘し、「炎症・免疫に対しての新規介入法は、次世代の動脈硬化疾患予防法となるであろう」と結んだ。

(日経メディカル別冊編集)

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