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補助療法がホルモン療法のみのER陽性・HER2陰性例では、核HER4陽性が予後良好因子となる可能性【乳癌学会2012】

 EGFRファミリーに属するErbB4(HER4)は、ER陽性乳癌において高発現していることが分かった。また、補助療法がホルモン療法のみのエストロゲン受容体(ER)陽性・HER2陰性例では、免疫染色における核HER2陽性が予後良好因子となる可能性が示された。熊本大学医学部附属病院乳腺・内分泌外科の藤原沙織氏らが、6月28日から熊本で開催された第20回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 HER4は、EGFRファミリーの他の3タイプ(EGFR、HER2、HER3)とは異なり、予後良好因子であるとする報告がある。今回藤原氏らは、乳癌組織を用いてHER4の臨床病理学的意義について検討した。

 対象は、同院で治療を行ったステージIからIIIの原発浸潤性乳癌283例(年齢中央値は59歳)で、治療開始前の新鮮凍結組織を用いた。観察期間の中央値は53カ月だった。

 283例の患者背景は、閉経前が75例、T分類ではT1が150例、T2が113例、T3が10例、T4が10例。N分類ではN0が178例、N1からN2が105例。腫瘍グレード分類では、Grade1が145例、Grade2が67例、Grade3が70例、不明1例だった。

 ER陽性が221例、PgR陽性が191例、IHC法によるHER2陽性が39例だった。Ki64高値(15%以上)は88例、不明5例だった。腫瘍タイプは、luminal A 83例、luminal Bが125例、luminal B・HER2陽性14例、HER2タイプ24例、トリプルネガティブ37例だった。

 HER4のmRNA発現量を測定するため、新鮮凍結組織からRNAを抽出して解析を行った。その結果、HER4 mRNAは、ER陰性例に比べ、ER陽性例で有意に高発現していることが分かった(p<0.0001)。

 HER4発現量の中央値で2群に分けて、全対象者を解析した結果、HER4高発現例はHER4低発現例に比べて無再発生存期間(RFS)が有意に良好だった(p=0.02)。ただし、ER陽性・HER2陰性例に限って解析したところ、HRE4高発現例とHER4低発現例の間で無再発生存率に有意差がなくなり、予後に影響はなかった。また、ER陽性・HER2陰性例で補助療法としてホルモン療法のみを受けたグループを対象に検討したが、この場合もHER4高発現例と低発現例の間で無再発生存率に差はなかった。

 HER4は、細胞膜でのタンパク質切断によって細胞内(4ICD)フラグメントとなる。4ICDの一部は、細胞質や核へと移行し、エストロゲン存在下でERの補助活性化因子(コアクチベーター)となる。そこで、HER4タンパクの局在について臨床的意義を調査した。

 283例のパラフィン包埋乳癌組織を4μmに薄切した切片を用いて、HER4末端を認識する一次抗体HFR-1で免疫染色を行った。その結果、核HER4は65%、細胞質HER4は60%が陽性だった。

 ER陽性・HER2陰性の208例では、核HER4陽性率が50%未満だった80例と、陽性率50%以上だった128例で比較しても予後への影響は認めなかった。しかしこのうち、補助療法がホルモン療法単独だった150例に限ってみると、核HER4の陽性率が50%未満だった59例よりも50%以上だった91例で有意に予後良好だった(p=0.019)。

 これらの結果から、補助療法がホルモン療法のみのER陽性・HER2陰性例では、免疫染色における核HER4陽性が予後良好因子となり得る、と結論した。藤原氏は、「ERへのエストロゲンの作用が低下した場合、4ICDとERの相互作用が減弱し、4ICDはミトコンドリアに蓄積され、細胞死を誘導するため、核HER4陽性例がホルモン療法治療群で予後良好だった理由の1つと考えられる」と考察した。

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