高額な医療費がかかる場合でも、70歳“以上”の方は特別な手続きなしで、70歳“未満”の方は医療機関の窓口に「限度額適用認定証」を提示することで、窓口での支払いを「自己負担限度額」までにとどめることができます。
相談にのってくれる窓口もあります。
がんの検査や治療にはお金がかかります。一体いくらかかるのか、これまでの蓄えで足りるのか……、病気の心配に加えて経済的な心配が重なるのはつらいものです。
医療費の負担をサポートしてくれる公的な制度や、相談に乗ってくれる窓口があります。
また、あらかじめ大まかな費用(金額)を知っておくことで、お金の面での心の準備をすることができます。
高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、1カ月の医療費の自己負担分が一定の額(自己負担限度額)を超える場合に、患者さんが支払う負担を軽くする制度です(図1)。
「自己負担限度額」は、年齢や所得区分に応じて決まります。
【70歳“以上”の方の場合】
特別な申請は不要です。入院・外来の場合ともに、医療機関の窓口で健康保険証を提示すれば、ひとつの医療機関でひと月(1日~末日)に窓口で支払う医療費の負担額は、「自己負担限度額」以上にはなりません。
所得区分別の「自己負担限度額」は表1の通りです(2017年8月改定)。
【70歳“未満”の方の場合】
加入している医療保険に、「限度額適用認定証」の交付を申請しましょう。
医療機関の窓口に「限度額適用認定証」を提示することで、ひとつの医療機関でひと月(1日~末日)に窓口で支払う医療費の負担額は、「自己負担限度額」以上にはなりません。
所得区分別の「自己負担限度額」は表2の通りです(2017年8月現在)。
【「限度額適用認定証」について】
手術や化学療法など、まとまった費用のかかる治療を行うことが決まったら、はやめに「限度額適用認定証」の交付を申請しましょう(図2)。
【「多数該当」について】
過去1年間に、自己負担限度額を3回超えた場合、4回目からは、自己負担限度額が引き下げられ、患者さんの負担がより少なくなります(図3)。医療費の負担額が自己負担限度額に達しない月はカウントされません。
患者さん側からの申請は必要ありません。「多数該当」に該当するかどうかは、医療機関側で判断します。
【複数の医療機関や薬局での支払いがある場合】
その月の医療費の自己負担分について、医療機関ごと注)、入院と外来に分けて計算し、それぞれ21,000円以上のものを合計します。この合計が「自己負担限度額」以上であれば、超えた分について後日払い戻しを受けることができます。払い戻しは3~4カ月後になります。
また、同じ月内に、同一世帯で21,000円以上の自己負担が複数あるときは、これらを合算して自己負担限度額を超えた場合も、超えた分について後日払い戻しを受けることができます(世帯合算。70歳以上の方がいる世帯では算定方法が異なります)。
この制度を利用するには、加入している医療保険の担当窓口に、必要書類を添えて申請する必要があります。
注) 病院の窓口での支払いのほか、処方せんをもらって調剤薬局で購入するお薬の代金も、対象に含まれます。
高額療養費制度のしくみや手続きはなかなか複雑です。くわしくは、お住まいの市区町村の担当窓口や、加入している医療保険の保険事務所、病院の社会福祉士(ソーシャルワーカー)や支払窓口に相談すると良いでしょう。
税金の医療費控除
公的医療保険や民間保険などから支給された金額を引いても、1年間にかかった医療費の自己負担額が10万円(総所得が200万円未満の人は所得額の5%)を超えたときには、税金の医療費控除が受けられます。所得額から医療費が除かれることによって、所得税の税率に応じて、いわば医療費が戻ってくることになります。
今年1月1日から12月31日までにかかった医療費に対して医療費控除を受けるためには、翌年の2月から3月の間に確定申告をする必要があります。この制度の対象となる「医療費」には、通院のための交通費や差額ベッド代、医薬品の購入費用などが含まれます。
また、本人だけではなく、配偶者や同居している親族など、同じ世帯の家族全員の医療費を合わせて申告できます。がん治療での医療費だけではなく、家族の医療費や薬代などの領収書をすべて取っておくようにしましょう。温泉などの健康増進施設の利用料金や運動療法の実施施設の利用料金などは、使用証明書などが必要なこともあります。
どのくらい医療費が戻ってくるかは、税率によって異なります。同じ金額を申告したとしても、税率の高い人のほうが戻ってくる金額は多くなります。納税者が同じ世帯の中に複数いるときには、所得の高い人がまとめて申告したほうが戻ってくる金額や節税効果も大きくなるということです。なお、非課税世帯はこの制度の対象にはなりません。
医療費控除についてわからないことがあれば、税務署や税務相談室に相談してみましょう。
民間保険の給付も忘れずに
民間の保険会社のがん保険などに加入されている患者さんは、保険金の給付の対象となる可能性があります。
大腸がんと診断され、おおまかな治療方針が決まったら、
(1) まずは、加入している保険会社に、ご自分の病状や受ける治療が、加入している保険の給付の対象に当てはまるかどうかを、問い合わせましょう。
(2) 保険金の給付には、各保険会社の所定の診断書への担当医師の記入・署名捺印が必要です。保険会社から診断書の用紙を入手してください。
(3) 診断書の用紙を、医療機関の担当窓口に提出してください。
※診断書の作成には、1通あたり5,000円程度の診断書作成料がかかります(医療機関によって金額は異なります)。
せっかくの備えですから活用しましょう。
わからないことは、加入している保険会社にどんどん問い合わせましょう。
医療費に関する相談窓口
ここまでに紹介した高額療養費制度や税金の医療費控除のほかにも、医療費の負担を軽くする制度にはいろいろなものがあります。
自治体によっては、療養費の貸付を行っているところがあります。また、企業の健康保険組合や共済組合の中には、療養費をさらに補助する独自の制度を持っており、1カ月の自己負担額が3万円程度で済む場合もあります。
人工肛門になった方では、身体障害者認定を受ければ医療費の減免などが受けられます(認定には、認定資格をもつ医師の診断書が必要です)。
これらの制度のしくみや手続きはなかなか複雑です。ひとりで思いつめずに、
・お住まいの市区町村の担当窓口
・加入している医療保険の保険事務所(保険証に記載されています)
・病院の社会福祉士(ソーシャルワーカー)
や支払窓口に相談しましょう。
全国のがん診療連携拠点病院の「相談支援センター」にも相談窓口があります。
[参考サイト]
・厚生労働省ホームページ「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
・全国健康保険協会ホームページ
・国税庁ホームページ:タックスアンサー>所得税>No.1120医療費を支払ったとき(医療費控除)
・国立がん研究センターがん情報サービス ganjoho.jp 「相談支援センターを探す」