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センチネルリンパ節への制御性T細胞集積によりセンチネルリンパ節単独転移の診断ができる可能性【乳癌学会2013】

2013/07/01
野中希=医学ライター

 乳癌センチネルリンパ節(SN)生検によるSN生検陽性例において、SNにおける制御性T細胞(Treg)の集積数がSN単独転移診断に有効である可能性が示唆された。6月27日から浜松で開催された第21回日本乳癌学会総会で、千葉大学医学研究院の鈴木ティベリュウ・浩志氏が発表した。

 近年、乳癌SN生検は、不要な腋窩リンパ節郭清を避けるT1-2N0乳癌の標準治療として確立してきた。しかし、迅速組織診によるSN生検陽性例では、腋窩リンパ節郭清は避けられない。ACOSOG(American College of Surgery Oncology Group)Z0011試験の報告では、腋窩リンパ節廓清追加の優位性が示されず、今後さらに、非SN郭清を併用しない腋窩ステージングが求められている。

 そこで鈴木氏らは、郭清省略症例の選定のための新しい診断マーカーとして、悪性腫瘍への集積や、乳癌においては主病巣への集積と予後との相関が示されているTregに着目し、Tregによる腋窩ステージングの可能性を検討した。

 最初に臨床病理学的検討として、報告されている非センチネルリンパ節(NSN)転移予測因子ついて、鈴木氏らの施設における過去10年の症例を対象に検討を行った。同施設ではSN転移陽性例が175例、うちNSN(+)例が25例だった。その結果、NSN転移予測因子として、脈管浸潤、節外浸潤、SN転移個数、SN転移径が有意な因子として見出された。

 続いて鈴木氏らは、Tregを用いた検証を行った。まず、乳癌手術症例100例を対象に、乳癌の進展別にSNにおけるTreg動態を解析した。患者100例の内訳はDCIS(非浸潤性乳癌)20例、IDC(浸潤性乳癌)のうち微小浸潤(predominant DCIS)20例、IDC(pN0)20例、IDC(pN1mi、0.2~2mmの微小転移)20例、IDC(pN1)20例。

 方法は、Tregのマスター遺伝子であるFoxp3の免疫染色による評価とし、SNにおけるTreg集積の変化を見た。その結果、predominant DCISに比べて、pN0のIDC、微小転移陽性(pN1miのIDC)においてTregの増加を認め、乳癌の進展によってSNにおけるTregの集積数に変化があると考えられた。

 次に、SN転移陽性例において、NSN(-)群30例、NSN(+)群30例を対象に、主病巣、SN、NSNにおけるTregの集積を比較検討した。

 患者背景では、SNの転移腫瘍径が、NSN(-)群で平均3.881mm(2.1-8.1)、NSN(+)群で3.04mm(2.2-7.2)と同等だった。なお年齢、病理学的腫瘍径、組織学的異型度、ER、PgR、HER2の状態について2群間で差はなかった。

 上記の患者群において、Treg集積を比較した。SN陽性例において、NSN(-)群はNSN(+)群に比べてSNにおけるTreg集積は有意に多かった。これはNSN(+)でなければTregは主にSNにあることが推測される。また、NSN(+)群はNSN(-)群に比べ、NSNにおけるTreg集積が有意に増加していた。一方、主病巣のTreg集積の比較では、NSN(-)群とNSN(+)群の間に有意差は認めなかった。

 以上の結果から、NSN転移の有無により、SN、NSNにはTregの特異的な偏在が認められ、SNにおけるTregの集積数を用いたSN単独転移診断の可能性が示唆された。

 Treg動態を裏付けるため、同じ症例を用いてTregの動態を制御しているケモカインCCL22の免疫染色を施行した。免疫強度によって0、1+、2+、3+の4つに分類した。

 結果、主病巣におけるCCL22の染色強度にNSN(+)群とNSN(-)群の間で有意差は認めなかった。また、SNのCCL22の染色強度はNSN(+)群がNSN(-)群に比べて有意に高かった。さらに、NSN(+)群においてSNのCCL22染色強度は高かったが、NSNにおける染色強度はさらに高かった。つまり、ケモカインであるCCL22がTregを進展先へと誘導していると考えられ、NSN(-)群ではまだNSNまで腫瘍が到達していないことからSNにおけるCCL22の染色強度は低~中等度だったが、NSN(+)群ではNSNまで腫瘍が到達していることからSNのCCL22染色強度は中等度以上で、NSNのCCL22染色強度はさらに高く、NSNの診断に用いることができる可能性が示唆された。

 鈴木氏らはさらに、Treg低値群と高値群にわけ、無再発生存期間(RFS)に対するTreg集積数の有意差を調べた(Treg集積数のカットオフ値中央値を60とした、観察期間45カ月)。転移陽性SNにおけるTreg集積低値群は、高値群に比べ、RFSが有意に短かった(p=0.028)。

 これらの結果から、「SNにおけるTreg集積数はSN単独転移の診断ができる可能性がある。また、SN、NSNにおけるTregの集積数とCCL22の染色強度を比較することで、NSN転移の診断もできる可能性が示唆された。NSN郭清省略と腋窩ステージングを両立させる極めて有用な方法論として期待される」と、鈴木氏は締めくくった。

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