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Lancet誌から
中国の鳥インフルエンザのヒト-ヒト感染は限定的
ウイルスは完全にトリ型を維持

 2007年12月に中国江蘇省南京で高病原性鳥インフルエンザH5N1)のヒト-ヒト感染が疑われた父子2人について、詳細に分析した結果、発端患者である息子から父への感染が強く示唆されたものの、2人から得られたH5N1ウイルスは完全にトリ型の配列を維持しており、変異は見られないことが明らかにされた。また他の濃厚接触者には感染はなかったことから、今回の感染は限定的なヒト-ヒト感染であることが示唆された。江蘇省疾病予防コントロールセンターのHua Wang氏らの報告で、詳細はLancet誌2008年4月26日号に掲載された。

 H5N1のヒト-ヒト感染が疑われた症例の報告はこれまでにもあったが、実際にヒトからヒトへの感染があったかどうかについては、厳密な分析は難しかった。今回、中国江蘇省で患者が発生した際は、公衆衛生当局が現地調査とラボでの研究を即座に開始し、疫学的、臨床的、ウイルス学的データの収集と分析が進められた。

 発端患者は24歳の男性でセールスマンだった。2007年11月24日に38.8度の発熱、倦怠感、悪寒を訴えて受診。そこで処方された抗菌薬を数日間使用したが、11月27日には発熱の持続、悪寒、筋痛、のどの痛み、咳、痰などの症状により入院することになった。入院時にはリンパ球減少症、中等度の血小板減少症、左下葉肺炎が認められた。11月28日の時点で血液培養によりSalmonella choleraesuisが検出されたため、細菌感染に対する治療が行われた。その後、進行性の呼吸困難、多量の泡状の痰、水様下痢、肺炎を示した。広域スペクトラムの抗菌薬とステロイドの投与、人工呼吸を行ったが、急性呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固、多臓器不全で12月1日に患者は死亡した。死亡の直前に、RT-PCRとウイルス分離によりH5N1感染が判明した。

 2番目の患者は、発端患者の52歳の父親で、退職したエンジニアだった。息子の葬儀の翌日(12月3日)、発熱(38.1度)、悪寒、咳を呈した。発端患者と接触があった人々に配られたオセルタミビルを保有していたため、その晩に使用(75mg)し、翌朝入院。発熱、軽症の血小板減少症、両側肺炎が認められた。レボフロキサシン、ステロイド、オセルタミビル(75mgを1日2回、5日間)を投与。入院3日目からリマンタジン(100mg/日を5日間)の投与も開始。しかし呼吸器症状は悪化し、陽圧換気が必要になった。

 12月7日には免疫血清200mLを2回注入。この免疫血清は、H5N1に対する不活性化全ウイルス粒子ワクチンのフェーズI試験に参加し2回の接種を終えた30歳の女性から得た。その結果、12月12日に肺炎が軽快、その後完全に回復し、入院から22日目に退院となった。入院4日目に咽頭スワブからH5N1ウイルスが分離されている。

 感染者2人から分離されたH5N1ウイルスは、NS遺伝子の1ヌクレオチドの同義的置換を除いて遺伝学的に同一だった。完全にトリ型のウイルスで、H5N1クレード2.3.4に分類された。

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