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“公務員医師”にも歩合制―ある地方公立病院の再構築をトレースする

2008/05/09

 大阪南部の公立病院のお話です。お隣の和歌山県の熊野や奈良の吉野の奥では、ひとたび病院がなくなれば、日々受診などで厳しい状況になります。今回の舞台は、公共交通機関などで大阪の中心部に受診場所を見つけることも困難でない、実際にいまも病気によっては京都や神戸に日常的に受診することも日常的に行われているだろう大都市近郊の公立病院です。

 大阪府阪南市の阪南市立病院で、2007年7月、内科医の大量退職で内科を閉鎖せざるを得ないという事態が起こりました。阪南市立病院は、阪南市が経営する185床の公立病院です。その内科は、和歌山県立医大が常勤医5人を派遣している医大ジッツ(派遣先)病院でした。その常勤医5人全員が、6月末に退職するということになりました。非常勤医師4人も常勤医の不在による緊急時対応の不安を覚えたのか、これと同時に辞職することになり、結局内科を閉鎖せざるを得ないという話になりました。

 病院の収入は前年度見込みで20億9300万円で、そのうち内科が37%の7億7400万円を占めているので、これが閉鎖となると、大幅減収になるのは必至です。一方、市の試算で、閉鎖すると余剰人員になってしまうために、仮に退職してもらうと必要になる看護師ら約60人の退職金が約6億9200万円となり、病院事業会計は単年度だけで10億4500万円の赤字見込みという危機が生じました。

 医師派遣元の大学病院も全国的に新研修医制度の導入や法人化で自分の病院のスタッフ補充だけでも大変な時代です。さらに、和歌山は県内に広く医療過疎地を抱える地域ですから、和歌山県立医大の今回の勤務医引き上げも、「白い巨塔」時代の恣意的な関連病院処遇などではなく、本当に背に腹は代えられない状況だと推測されます。

 そういう事情を勘案すれば、今回の出来事も地方の公立病院における勤務医喪失の一典型とみることができると思われます。今春4月病院の再建計画が市議会で議論されたころ、残留した小児科の勤務医は、産経新聞のインタビューで、「一斉退職の前兆のようなものはあったのか?」という記者の問いに、次のように答えています。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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