1 従来の警察捜査と検察処分
(1)警察の捜査開始
警察は犯罪らしき情報が入れば捜査を開始する。医療過誤の業務上過失致死罪
(刑法211条1項前段)について、捜査開始の端緒(きっかけ)は、患者遺族の刑事告訴、病院内からの告発、医師法21条の異状死届出が主なものであった。
とはいっても、捜査開始直後に医師を容疑者扱いで取り調べる訳ではない。まず、カルテ等の医療記録を患者遺族などから入手して検討し、警察の協力医に相談して見解を聞き、時には鑑定意見書などをもらって準備する。
そうしてから医師を呼んで、任意での取り調べを開始し、自供をとったら、検察に回したり、時には強制捜査(捜索差押、逮捕)に移行した。
この過程で鍵を握っていたのは、警察の協力医の鑑定意見、そして容疑者の医師の自供の2つである。
(2)検察の刑事処分
検察の主たる役目は捜査ではない。捜査結果を検討して、刑事処分を決めることであった。主な処分には、起訴処分(公判請求と略式罰金請求)と不起訴処分(有罪相当の起訴猶予と無罪相当の嫌疑不十分)がある。
まず、鑑定と自供により有罪相当か否かを検討しなければならない。自供があっても公判で翻されることがあるので、鑑定が頼りとなる。少なくとも自供がなければ、起訴処分たる略式罰金と不起訴処分たる起訴猶予にはできない。
最もきわどい決断は、起訴処分たる公判請求にするか、不起訴処分たる嫌疑不十分にするか、の二者択一が迫られる場合である(弁護士の立場からすれば、起訴前弁護の真骨頂である。ただ、水面下での攻防なので、一般には目立たない)。検察にとって究極の拠り所は、鑑定にならざるを得ない。
次に、有罪相当だとなると、起訴するか否か、起訴するとしても公判か略式罰金かは、法的には検察の裁量である。結果は患者死亡で重大に決まっているので、情状によりけりとなろう。医療行為自体の情状の中心は、過失の程度が重大か否かである。
患者死亡後の情状の中心は、自供して反省しているか否か、被害補償して示談したか否か、犯罪を隠ぺいしていなかったか否か、初犯かリピーターか、行政処分をはじめとする社会的制裁を受けたか否か、などというものになろう。
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