乳がんを患って、乳房や脇の下のリンパ節を切除した場合、切除した側の腕(上肢)にリンパ浮腫や腕を動かしたときの痛み、皮膚のひきつれ感が起こる。こうした腕の症状は、術後から腕の運動やマッサージによって予防することができる。
ここでは、腕や肩の障害を防ぐ運動やマッサージに詳しい東北大学大学院医学系研究科保健学専攻がん看護学分野教授の佐藤冨美子氏に、乳がん術後に見られる上肢機能の異常がなぜ起こるのかを解説していただくとともに、こうした上肢機能障害を予防するための腕の変化の評価やマッサージ、運動を紹介していただいた。
(1)リンパ浮腫を予防するため手術直後から積極的に対応を
乳がん手術後に発症するリンパ浮腫は、脇の下のリンパ節を切除したために、リンパ液の流れが悪くなり、皮下組織に体液が溜まってしまって手や腕がむくんでしまう状態を言います。一般的に、手術側の腕と手術をしなかった側の腕の太さの差が2cm以上になっている場合、または手術前の腕の太さが分かっている場合は、手術前後での太さの比較を行って判断します。
リンパ浮腫は、乳がんの手術を受けた方のうち、10~18%程度の方に認められると報告されています。手術直後のむくみは多くが改善します。しかし、手術してから数年経過した後にリンパ浮腫と診断された場合は、治療しても改善が得られにくいため、手術後早期から、リンパ浮腫の原因となる生活に注意すること、マッサージや運動を行うこと、適切な治療を受けることが重要です。
腕を観察しているとむくみが出て、腕の太さが変わってくるのが分かります。
また、腕が「腫れぼったい」と感じたら、巻き尺で腕の太さを測ると良いでしょう。手術前に肘から上、肘から下の距離を2カ所決めて測定しておくと、手術後の測定値と比較できます。ここでは、肘から肩に向かって15cmのところ(写真2参照)と、肘から指先に向かって10cmのところ(写真3参照)で測定します。この2カ所について、手術をした側の腕と手術をしなかった側の腕を測定し、比較します。その差が2cm以上になっていないか観察します。
自分一人で測定が難しい場合は、家族に協力してもらうとよいでしょう。協力してもらうことで家族がリンパ浮腫とその予防行動に関心を持ってくれる機会になります。