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報道と人権―ある医療報道をめぐって
(5/20訂正)

2008/05/20

 5月13日の朝日新聞は、2007年5月に同紙朝刊に連載された「ドキュメント医療危機」に対する記事修正などを求める申し立てに対し、同社の「報道と人権委員会」(PRC)が、5月12日、「記事に大きな誤りや偏りはなく修正等の必要はないが、記事掲載後の関係者への対応は誠意を欠いた」とする見解をまとめたと報じました。

 PRCは朝日新聞社自身の第三者機関ですが、今回の見解(全文は以下のサイト)をまとめた委員は、本林徹・元日弁連会長、長谷部恭男・東大教授(憲法学)、藤田博司・元共同通信論説副委員長の3氏です。

 PRCの見解全文は、引用のサイトでご覧いただくにして、ここでは朝日新聞の13日の記事から見えてくる「報道と人権」について考えてみます。今回検討されたのは、連載記事のうち2007年5月2日付(第19回)、3日付(第20回)の「割りばし事故」に関する記事です。

 「割りばし事故」は、1999年7月10日の夜、東京都杉並区で盆踊りに母親たちと来ていた4歳の保育園男児が綿あめをくわえたまま転倒し、大学病院救急部で耳鼻科医の治療を受けたが翌日死亡した事件です。

 司法解剖で頭蓋内に残った7.6cmの割りばしが見付かっていますが、警視庁は2000年7月、医師の診療を不十分だったとして業務上過失致死容疑で書類送検、東京地検は02年8月に起訴しました。

 東京地裁は、06年3月、医師は適切な診断をしなかったと過失を認めたものの、治療していても救命の可能性は極めて低かったとして無罪を言い渡しました。検察側はこれを不服として控訴しています。

 ちなみに民事訴訟では、医師の診療は医療水準を満たしたもので過失も認められないと請求棄却の判決が出ており、遺族側が控訴しています。

 本題の新聞連載の話に戻りますと、この連載記事を書いたのは、当時朝日新聞編集員で医療ジャーナリストとして著名な田辺功氏です。連載第20回で田辺氏は、「『CT検査せず』、裁判の争点に」の見出しで「これで刑事責任を問われるのなら救急医療は成り立たない、と裁判で証言した」という救急専門医の話を紹介しています。

 実際に、田辺氏はPRCに対し「この事故のようなケースで医師の刑事責任を追及するのは救急医療の現場を萎縮させ、医療崩壊につながる」と今回の記事の趣旨を説明しています。

 死亡した男児の両親は、田辺氏の書いた記事について、病院側に偏った記事であり、それを指摘した手紙を送った後の対応も納得できないと主張していました。PRCはこの主張に対して、

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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