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保険指導を問う
「歯科医自殺事件」はなぜ起きたのか
きっかけは患者通報、指導官の言動で追い詰められ…

 昨年秋に、東京社会保険事務局の個別指導を受けていた歯科開業医が自殺し、新聞でも報じられた。指導医療官の威圧的な指導があったとされ、以前から指摘されてきた“密室性”の問題が露呈した形だ。またこの事件では、患者からの通報をきっかけに個別指導が行われたが、こうした通報に基づく個別指導が増えてきているのも最近の特徴だ。

メールに残された指導の中身

 個別指導は、医療機関や医師に対して社会保険事務局が行う保険指導で、個別面談形式で行われる。厚生労働省は対象者について、「支払基金や保険者、被保険者などから情報提供があり個別指導が必要と認められた場合」、「集団的個別指導の結果、大部分のレセプトが不適正だった場合」など、7つの選定基準を設けている。指導に当たるのは、医師免許を持つ指導医療官や事務官など。指導の結果、不正請求が疑われる場合などは「監査」の対象となり、悪質と判断されれば保険指定取り消しなどの処分が下される。

 自殺したA氏(享年57)は都内のオフィス街で歯科医院を開業していた。最初の指導が行われたのは、2006年4月のこと。東京社会保険事務局は「個別の件についてはお話しできない」としているが、A氏は、所属していた東京歯科保険医協会にメールでこう伝えている。「2人の指導官から次のような発言がありました。1.こんなことをして、おまえ全てを失うぞ! 2.今からでもおまえの診療所に行って調べてやってもいいぞ、受付や助手から直接聞いてもいいんだぞ!」、「最初の指導は、まさに恫喝で終始しました」。

 A氏は同協会の担当者に、「なぜあそこまで人権を無視したことを言われなければいけないのか」と涙ながらに話し、2回目の指導まで「今まで経験したことのない苦しい時」を過ごしたと訴えていたという。

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