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モンスターハズバンドって何?―新しい論点を読む

2008/06/03

 5月20日付の毎日新聞で、「モンスターハズバンド」という目新しい言葉を見付けました。この記事は、東京の愛育病院院長の中林正雄先生が、「産科医療の危機」をテーマにしたセミナーで、この半年間、自院で起きたトラブルの中から13ケースを発表したというものです。

 記事が紹介しているのは、13ケースのうち読者がエッと驚くような数ケースです。男性産婦人科医が分娩経過観察に内診したら、夫から「セクハラだ!」と抗議され、女医に交代した話、体温測定でエラーが出ただけでどなる夫の話から始まり、まさにこのところ大流行りのモンスターペアレントのハズバンド版といえる事例が並びます。レアケースとはいえども、世の中ここまできているのかと感じさせられるお話ばかりです。

 例えば、「病院は金がなくとも妊婦を診るのが当然。失業中だから入院費は払えない」「この病院で診察しないなら、他病院へのタクシー代を払え」など発言する夫のケース。他科でも目立ってきているという治療費不払い、トンデモ要求の産科版ですが、この夫は以前に暴力的行為で問題になったこともあり、強固な態度を崩さなかったため、病院は都立病院に患者の受け入れを依頼し、公用車で送ったということです。このようなタイプの人々は、今度は子供が生まれて成長した末には、給食料や授業料の不払いなどでモンスターペアレントになる可能性大です。

 ほかにも、陣痛で痛がる妻を見て「こんなに痛がっているのに、何もしてやれないのか」と苦情を言う夫、個室希望に4人部屋しか空きがないと伝えると、「個室を用意しろ。どこかに部屋はあるはずだ」と大声で壁をたたき、スタッフを威嚇する夫。後者のケースでは、翌日には個室に移動できることを説明し納得してもらったものの、一晩中屈強な男性医師と守衛とで夫を見張っていたといいます。ここまで行くと、クレームというより、院内セキュリティの問題といってよいレベルです。

 夫婦というのは、「割れ鍋と綴じ蓋」です。患者本人から「付き添いの夫に食事を出してほしい」との要望があり、病院側では実施していないと説明したところ、「高い室料を払っているのに、あり得ない。これは詐欺だ」「マスコミにこの病院はこんなことをしてやると流してやる」と威嚇する妻も紹介されています。

 法的手段に訴えたり、マスコミへのアピールを示唆してのクレーミングは、格別医療の世界に限ったことではありませんが、それが定番の時代となれば、受ける方もしっかりとこのタイプの人々のプロファイリングとしっかりとした対応が必要です。

 中林院長は「こうしたクレームは、医療機関への不信感がもとで起きている。病院側も、診察内容など十分な説明が必要」とした上で、患者側にも「社会的に未熟な部分がある。社会ルールや医療に関する理解をもう少し深めてほしい」と希望し、さらに根本的解決の一つとして、「小中学校での性教育の充実をはかり、出産に関することなど、性に関する基礎知識を子どものころから正しく教えることが必要なのでは」と提言しています。

 私はこのような風景が生じるバックグラウンドには、少子化社会で子供が生まれるということが非常にレアな状況になっていることがあると推測しています。中林院長が指摘している性知識や社会常識の欠如が目立つ中で、妻が年下の夫と初めての子供を得るということも少なくないといった最近の社会状況も影響しているかもしれません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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