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特養ストレッチャー転落事件と医師法21条
中澤堅次(済生会宇都宮病院院長)

2008/08/06

なかざわ けんじ氏○1967年慶應大医学部卒業。2004年より済生会宇都宮病院院長兼看護専門学校長。現在、慶應大医学部内科学教室客員教授、NPO法人医療制度研究会理事長

 2008年7月末、変な記事を見つけたというメールが知り合いから届きました。特別養護老人ホームに入所中の女性が、入浴に際しストレッチャーから転落、死亡した事件で、搬送された病院の医師と副院長が虚偽診断書作成と、警察へ届出を怠ったという医師法違反で書類送検され、医師だけに罰金30万円の略式命令が簡易裁判所から出されたというものでした。

 自分の施設でおきた事故ならともかく、他施設でおきた医療事故を救急で引き受けた病院の医師が届け出違反の罪を負うのは変じゃないか、というのが友人の意見でした。

 具体例があると事故報告制度の問題が明らかになります。良いチャンスなので、ネットにある情報をしらべ、以下のような事件を知りました。

 ある特養で85歳寝たきりの方を介護師が入浴につれて行き、ストレッチャーの柵をおろしたまま反対側に回ろうとしたとき、入所者が転落し頭部を打撲、系列病院に搬送後死亡。病院は診断書に「病死又は自然死」と記載した。

 特養では10日後、規定により市に報告し、市は”警察に通報なし”の記載を気にして、警察に届け出るように施設に指導、特養から警察に届けが出された。

 警察は搬送された系列病院を捜査し、特養の施設長でもあった病院副院長および医師に診断書虚偽記載と届け出義務違反の容疑をかけた。結局簡易裁判所は担当医の届け出義務違反に罰金30万円の略式命令をだし、そのほかは不起訴になったというものでした。

 医師の届け出義務違反は21条の拡大解釈によるものです。受け入れ病院現場では外傷があり死亡したところまではわかりますが、転落死の事実がわかっていても過失かどうかを判断することは不可能で、過失が犯罪かどうかもはっきりしない。

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