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物価高騰が病院・施設を襲う

2008/08/08

 ある病院を歩いていて、廊下に張ってある食堂のお知らせが目に留まりました。

「従来まで○○セットについておりました△△は、このところの食材高騰により付けることが困難となりました。利用者の皆様の御理解をお願い申し上げます」

 なるほど、世界的な燃料や食材の高騰が、医療機関にまで影響を及ぼし始めているんだ。そう悟りました。

 このお知らせは、見舞客や職員が利用する食堂のアナウンスでしたが、同じ部署が担当する入院患者向けの給食業務はもっと大変でしょう。入院患者や施設入所者は、病態や健康状態によって、健康な食堂利用者よりも食材の選択や料理法が限られます。

 食材や燃料が高騰したからといって、量を減らしました、安い食材ばかりにしました、燃料費のかからぬ調理法にしました、「以上ご了解ください」。そうは簡単に行きません。

 私が関係している高齢者施設でも、1年単位で給食業務を外注し、競争入札で委託先を決めていますが、日々高騰する食材や燃料のコストをどう処理するかは非常に難しい作業だと推測されます。

 官製談合のように高値安定でなく、1食何円の違いであちらを選ぶ、こちらを選ぶという厳しい競争です。しかも、食中毒や栄養上の問題が生じれば、即退場、損害賠償というリスクを抱えての競争です。

 このような厳しい現実の背景には、もちろん厳しい診療報酬や介護報酬の設定・改定があります。安い人件費で安い食料費燃料費で、温かくて、美味しくて、患者や入所者の満足のいく給食を提供する。そんな課題を、一休さんのとんちのようにシャープにクリアしないといけません。なかなか実現の容易でない仕事です。

 今は暑い夏ですが、当地北海道ではこの冬を怖れています。一時の倍ほどに高騰した灯油を燃やして、冬をしのがなければなりません。

 破綻した夕張市の病院再建人として乗り込んだ村上智彦先生は、暖房光熱費が5000万円もかかるとして、夕張市に「何とかしてくれ」と申し入れをされました。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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