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特集●もし患者が自殺してしまったら ― 医療機関の自殺事故対策 Vol.4
かかりつけ医にできる自殺予防対策

「住民にとって最もアクセスしやすい、かかりつけ医の先生方に、うつ病の診断・治療や、患者への接し方を習得してもらうことが、自殺の2次予防につながる」と語る秋田大学医学部長の本橋豊氏。

 入院患者の自殺事故に対する医療機関の対策の先にあるのは、入院患者に限らず、いかに自殺者を減らすかという課題だ。「自殺を防ぐには、1次予防(うつ病などの自殺の危険因子となる精神疾患を予防する)と、2次予防(うつ病などの自殺の危険因子となる精神疾患の早期発見、早期治療)の両方を、統合的に行うことが重要だ」と秋田大医学部長で公衆衛生学教授の本橋豊氏は指摘する。

 秋田大のある東北地方は、全国的に見ても自殺率が高いことで知られる。秋田大では2000年ごろから、秋田県と協力して自殺対策に取り組んできた。地域住民に対して、うつに対する啓発活動を行う、相談体制を整えるなどの1次予防対策を強化した結果、5年間で自殺率を半減させることに成功した。

 1次予防対策を強化する中で分かったのが、うつ病が疑われる地域住民の多くは、既に何らかの形で医療機関を受診している、ということだった。ということは、内科や整形外科などのプライマリケアの段階で、うつ病などの精神疾患の初期の対応を行ったり、精神科医とうまく連携したりすれば、自殺事故に至る過程をブロックすることができるはずだ、という結論に至ったという。

 「住民にとって最もアクセスしやすい、かかりつけ医の先生方に、うつ病の診断・治療や、患者への接し方を習得してもらうことが、自殺の2次予防につながる。精神科医との連携に関しては、そもそも精神科医が足りない上に、地域的な偏在もあるが、都会に比べて“顔の見える”連携が作りやすいのがメリット」と本橋氏。

 そこで秋田県医師会では、「うつ病・自殺予防対策プロジェクト委員会」を立ち上げ、自殺についての研修を実施。さらに、自殺予防対策に優先的に従事する開業医を「自殺予防協力医」、かかりつけ医を支援する精神科医を「うつ病治療登録医」として、それぞれ認定する事業を始めた。

 今年の日本自殺予防学会でこの取り組みについて発表した、笠松病院(秋田市)院長で精神科医の稲村茂氏によれば、現在までに県内で、「自殺予防協力医」が約60人、「うつ病治療登録医」が約40人、それぞれ認定されているという。こうした体制を整えることで、連携が進むことが期待される。

 なお、こうした精神科医との連携に関して、今年4月の診療報酬改定で、新たに診療報酬点数が加算されることになった(表1)。かかりつけ医を自認する医師ならば、「自分の患者の自殺を防ぐ」という意識を持つ必要はある時代になったのかもしれない。

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