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本誌連動◇在宅医療 新時代 Vol.3
認知症には笑顔と共感
周辺症状は気をそらしてコントロール

 アルツハイマー病を発症してからの余命は約10年。80歳以上の4人に1人は認知症といわれる中、在宅で見ていく上でもっとも悩まされるのが、妄想や徘徊、攻撃的言動といった周辺症状BPSD:behavioral and psychological signs and symptoms of dementia)への対応だ。

 群馬大保健学科教授で認知症診療を専門とする山口晴保氏は、「BPSDは、認知症の中期に強く出現するが、認知症のどの段階でも出現し得る」と話す。ただし、記憶障害などの中核症状(認知障害)は進行していくものの、介入次第でBPSDをある程度調節できることは多い。「在宅での認知症患者の管理はBPSDをどれだけコントロールできるかにかかっている」(山口氏)。

 そのためにはまず、認知症患者に対する独特の対応法を家族に指導することが求められる。攻撃的な言動について山口氏は、「患者は自分の能力が徐々に失われていくことに対して漠然とした喪失感を持っているため、他者から少し注意されただけでも必死で自我を保とうとして怒ってしまう。すぐに怒ったり、失敗すると責任を他人に転嫁するような言動は、本人がそれだけ不安で追い詰められているということ」と分析する。

 認知症患者の不可解な言動などについては笑顔で受け入れて共感し、その間にほかに気をそらせることがポイントだ。例えば、夜中に外に出ていこうとする場合には、注意したり説得しようとしてもうまくいかない。そこで、「そうだね、一緒に行こう。でもその前にお茶を1杯飲んでからにしようか」といった具合に対応。すると、「お茶を飲んで楽しい話をしている間に、出かけることに固執していたことは忘れてしまう」(山口氏)。

 いらつきや興奮が強く介護者が手を焼く場合には、薬剤で症状を調節する方法もある。覚醒レベルを上げ、意欲を高める効果のある塩酸ドネペジル(商品名アリセプト)の投与量を半分に減らして様子を見る。あるいは、BPSDに有効で身体機能に影響しない抑肝散を投与して様子を見るという策もある。

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