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死をどう見つめるか―「死者を表玄関から送り出す診療所」に思う

2008/08/15

 8月10日付の毎日新聞京都版の「洛書き帳」という欄に、「病院には遺体に対して『不浄』という意識がある」というコラムが載っています。

 コラムには、先日ある取材で医師にインタビューした際の逸話が紹介されています。その医師が以前在籍した病院では、患者が亡くなれば地下の安置室に移し、裏口のドアから外に出していたが、現在勤務する診療所では、患者が亡くなれば病室でお別れ会をし、顔にハンカチを載せることなく玄関から送り出し、遺族からは必ずお礼の手紙が届くそうです。

 そして、記者は「『』を人目に触れない場所に隠す意識が働くのだろうか。どこか死者を冒とくしている気がして薄ら寒くなった」「私が患者なら死んだ後も人間としての尊厳を守ってほしい。」という意見を書いています。

 私はこの記事を読んで、病院、特に急性期病院は死亡退院を好まないだろうとは思うことはあっても、診療所とはいえ、死化粧はしているものの、顔布もかけないご遺体が玄関から送り出されるところがあるということを知らなかったもので、非常に驚きました。

 また、この医師が現在勤める診療所にはご遺族からお礼状が届くとのことですが、他の患者さんやそのご家族はこの見送りをどのように眺められるのでしょうか。中には表玄関から他人の目に触れる帰り方をしたくなかったというご遺族はいなかったのかしら?などとも考えてしまいました。

 日本人は死を忌む気持ちが非常に強いような印象はありますが、「人は死なないのが当たり前」といった現代日本人の非常識な感覚を脱するには、このようなメメント・モリ(死を想う)の機会を増やすのも一つの方法かなとも思います。

 人は誰でも必ず死にます。そういう事実を否認して、モンスター化する患者さんやご家族をしばしば耳にすることがあることを思えば、この記事を書いた記者さんとは違った意味ですが、私も死の尊厳性についてしっかりと考え直す必要があるように感じます。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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