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病原体不活化導入に向けた提案
輸血による薬害の防止策
下平滋隆(信州大学医学部附属病院先端細胞治療センター)

2008/08/11

しもだいら しげたか氏○1990年信州大学医学部医学科卒業。2008年信州大学医学部附属病院輸血部准教授、先端細胞治療センター副センター長。輸血・細胞治療、再生療法の開発研究に従事。

 今年1月、輸血によりB型肝炎ウイルス(HBV)による劇症肝炎で死亡した事例が、日本赤十字社から厚生労働省薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会に報告されました。つい最近のことです。死亡例は2002年以来ですが、検査精度をすり抜けて感染した可能性の高い方でした。

 これだけ安全になっていると言われても、輸血による薬害の防止策には、以下のための連携・協力・支援体制の基盤整備こそが緊急の課題と考えます。

―輸血血液のさらなる安全性向上を目指してパラダイム転換を図り、病原体不活化技術の導入が図れるようにする

―最新かつ正確な国際的な情報を収集・開示して、将来の血液事業、行政による制度設立、競争力のある学術事業の発展に貢献できるようにする

―医療現場における質の高い治療の提供を可能とし、国民医療・福祉に寄与する

 輸血感染症の回避のためには、段階的な戦略が言われています。まず、

1.ドナー血液のウインドウ期(感染しても検査で陽性と分からない期間)の回避、
2.皮膚消毒および初流血(針を刺して最初に流出する血液)の除去による細菌汚染の防止、
3.病原スクリーニング検査と遺伝子核酸増幅検査(NAT検査)によるリスク軽減、

さらに、

4.製剤品質を損なうことのない病原体不活化、
5.適正使用の啓発、
6.副作用/有害事象のサーベイランスと国家間ネットワークの構築

は最終的なレベルです。

 今まで地道に進められてきた日赤血の安全対策も、4から6の水準について飛躍できることこそ、10年先の医療の在り方と考えます。

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