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近ごろの「うつ」を考える―増える「回避性自己愛性人格障害」

2008/09/26

 知り合いの精神科医がぼやきます。彼は街のビル診療所で心の疲れた患者さんの治療に従事していますが、日々診療業務に忙殺されて、自分自身が擦り切れそうだというのです。

 全国保険医団体連合会は、一昨年「医師および歯科医師の精神状況についての意識調査」を行い、昨年10月6、7日に開催された第22回保団連医療研究集会で、開業医の4人に1人がうつ状態」など、この調査から浮かび上がった開業医の心身状態を発表しました。

 この調査は8435人の開業医に対して行われ、回収率は38.5%でした。回答者の開業歴は平均17.7年で、無床診療所が92.4%。平均年齢は58.4歳、1週間の平均労働時間は43.7時間です。65%が労働基準法の目安である週40時間を超え、8.8%は60時間以上となっています。

 心身状態について、「現在、身体は疲れている」が82.4%で、30%が「限界」と感じており、かなり疲れている様子です。うつ状態が27.3%、うつに対して服薬しているが26.7%と、4人に1人がうつ状態にあり、抗うつ薬の服用をしているという厳しい結果になっています。こうしてみると、知り合いの開業精神科医の悲嘆も決して珍しいことではなさそうです。

 ところで、この精神科医の見たところによると、特に若い人に従来のうつと大分違った感じの患者さんが多いといいます。いわく、中高年もよくうつになり、例年3万人を超す自殺者の中でも中高年が一番高い比率を占めますが、彼らの性格傾向としては執着性格、メランコリー親和型が圧倒的に多い。

 ところが、「うつ状態」だと訴えて来院する若い人たちの様子は、そのような生真面目な中高年とずいぶん違った感じがするというのです。どういうことかというと、若い人のうつには、回避性自己愛性人格障害によるうつが多くみられるのだというのです。

 わが医学生時代には、「回避性自己愛性人格障害」という概念は知りませんでしたが、このところは医学書だけでなく、一般の雑誌でもこのような表現をちょこちょこと目にするようになりました。そこで、「回避性自己愛性人格障害」とはどういうものなのかメルクマニュアル家庭版で調べてみました。

 まず、「自己愛性人格」の項には、

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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