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自殺予防と動物愛護―都市生態系における進化論

2008/09/29

 僕には毎年、9月になると考えさせられる2つの啓発週間があります。

 9月10日の自殺予防デーに因んだ自殺予防週間(9月10日~16日・内閣府)と、「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)に基づく動物愛護週間(9月20日~26日・総理府)です。

 いったいなぜ、私たちの社会は、このような啓発週間を国家事業として実施しなければいけなくなってしまったのでしょうか?

 この問題を考えるために、僕は「現代日本の都市生態系」についてチャールズ・ダーウィンの進化論を基に論考してみます。

 政府が取り組むように、今日の自殺者の統計には痛ましさを感じます。

 1998年以降、本邦では大都市を中心に10年間連続で毎年3万人以上の方が自殺で亡くなられています。これは2007年に警察庁が発表した年間の交通事故死亡者数、約6000人の5倍もの数になります。

 この現実を受け政府は2007年6月、自殺対策基本法に基づき、推進すべき自殺対策の指針である「自殺総合対策大綱」を策定しました。

 人間に都合よく飼いならされた動物たちの命も、都市生態系の変化にともない無意味な死を余儀なくされています。

 1973年、家庭動物、展示動物、産業動物(畜産動物)、実験動物等の人の飼養に係る動物を対象に、動物の愛護と動物の適切な管理(危害や迷惑の防止等)を目的に法が制定されました。

 しかし環境庁の統計によると2006年度にガス殺処分により安楽死された犬や猫など家庭動物の件数は約35万件に上りました。その処分数は依然として先進国でも有数であることは否めません。

 産業動物の位置付けにしても、自然生態系における食物連鎖と比較して、肥満大国化した人間社会の都市生態系では食物連鎖と呼べるものではないでしょう。

 先日、佐渡市のトキ保護センターで絶滅した国内産トキの代わりに中国産のトキが放鳥され27年ぶりに佐渡の空を舞いました。希少種の命は珍重されますが、もとは人間が地域生態系を犯した罪の代償にほかなりません。

著者プロフィール

今高城治(獨協医科大学小児科講師)●いまたか じょうじ氏。獨協医科大学医学部卒、慶應義塾大学文学部(哲学)卒、医学博士。小児神経学会評議員。現在、慶應義塾大学法学部(通信教育課程)に在籍し政治学を専攻中。

連載の紹介

今高城治の「医療と生命倫理のパンセ」
文明と医学の進歩は人類に本当の幸せをもたらすのか?超重症児医療に従事しながら、哲学・倫理学・法学を修める今高氏が、独自の世界観を背景に現代の倫理、哲学、思想、サイエンスに対する諸問題を論考していきます。

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