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在宅医療への移行は患者を救えるのか?
大谷勇作(医療環境情報研究所)

2008/10/29

おおたに ゆうさく氏○1978年明治薬科大薬学部卒業。株式会社野村総合研究所を経て1993年医療環境情報研究所を設立。医療及び医療関連サービス、環境などに関する調査研究及びトータルマネジメントをより積極的に推進・従事、現在に至る。

 既知のことではあるが医療崩壊が言われている現在、病院数は9,000を切り(2006年10月時点、 8,943病院)、さらなる医療費抑制政策によって病院数の減少が加速する一方、無床の診療所(開業医)数は増加傾向にある(なお、有床の診療所は減少傾向にある)。

 すなわち、病院の勤務医数は不足傾向、なかでも必須とされる救急、産科、小児科、外科などの診療科の勤務医数は過酷な勤務状態から大幅な減少傾向にあり、求められる医療と提供できる医療のバランスが大きく崩れつつある。

 さらに、今回のテーマである在宅医療については、提供される医療・看護・介護の内容や受け入れ体制の良否はともかく、療養病床の大幅な削減や介護福祉施設の不足の結果、否応なく、病院から在宅への患者の移行が促進されてきている。

 以上のような医療提供体制の変化が実際に在宅へ移行する患者(家族を含む)に対してどのような影響を与えるのか、特に、在宅患者自身だけでなく、在宅患者を支えるべき地域社会(地域医療)へ与える影響を全体的に考察した報告は、いまだ見られないように思われる。また地方医療の崩壊が言われている現在、その影響の大きさは予想を超えるものと推察される。

 筆者はこれまで、地域薬剤師会(横浜市中区薬剤師会)とともに、地域医療(地域とはいっても対象は大都市ではあるが)における薬局のあり方を模索してきた。今回は、その活動を通じて得られた「在宅医療から発生する医療廃棄物の処理」という観点から、病院から在宅へ患者が移行することでどのような問題が発生するかを考察し、現在の政策の問題点を指摘したい。

 医療廃棄物(特別管理廃棄物/廃棄物処理法:定義や分類の詳細については各専門書をご参照下さい)は、病院において大量に発生するが、病院という集中した場所(1ヶ所)に存在しているため、保管や回収が非常に容易である。

 しかし、病院数が減少し、診療所数が増加すると、医療廃棄物が発生する場所も分散し広範囲となることから、回収が困難となる。すなわち、個々の診療所での保管場所の確保や回収などの費用の問題も発生してくることとなり、不法投棄の増加が懸念されている。加えて在宅への患者移行は、医療廃棄物の分散を加速し、さらなる問題を発生させるものと推察される(在宅患者による保管場所確保、回収費用負担、不法投棄等)。

 実際に不法投棄については、自治体のごみの有料化の促進に伴い、一般ごみとともに医療廃棄物(注射針を含む)がコンビニのごみ箱に廃棄されていた例や海岸に漂着していた例などが、すでに多数報告されている(医療廃棄物研究会『医療廃棄物研究』「国内マスコミ情報」参照)。

 また最近では、筆者在住の東京都多摩市広報(2008年8月20日)に、在宅医療から発生した点滴袋やチューブ類(針付き)の廃棄に対する注意が掲載されていた。実際に廃棄された例があったためと考えられる。

 このように、医療施設の分散化や在宅への患者移行は、医療廃棄物も分散化させるとともに、個々の排出する量が病院より少量となるため不法投棄への意識を薄れさせることとなり、さらなる不法投棄の増加を促進させる危険性がある。

 なお実際には、診療所から発生する医療廃棄物の総量のみならず在宅医療廃棄物(液体も含む)がどのくらい発生しているか、総量の把握はなされていないというのが現状であり、拡散の状況も不明である。

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