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医学生の皆さん、いらっしゃい―ある大学病院のキャンペーンを読む

2008/10/31

 紅葉も段々と散っていく晩秋の週末、母校に医療リスクマネジメントの講演に赴きました。

 以前このブログ(2007.5.1「産婦人科医の悲鳴、不安、そして喜び」)に記したように、昨年の講演では、必死で地域医療を支えようとがんばっている某科の教授から「あまりにシビアなプレゼンテーションは、若い人たちのモチベーションに冷や水をかけてしまう」とイエローカードを出されてしまいましたが、年を追うごとに真剣なまなざしで聴講してくださる姿が増えてきている印象です。しかし、もともとのジャンルが学生さんや医療者にとって、決して耳に心地よいとはいえない医療事故や医療紛争の話ですが、時代がこのようなディズマル(暗い)な話題にわれわれが正面から向き合うことを要請しているからなのでしょう。

 一通り講演し、短い休憩を取った後、次の質疑応答のコーナーに移る前に、あるDVDが供覧されました。今回はそのDVDに収録された「信州医療ワールド夏季セミナー」の内容についてお話します。なお、このDVDは信州大学医学部付属病院地域医療人育成センターの下記サイトで閲覧できますので、ご覧あれ。

 信州大学の地域医療人育成センターは、2006年10月、地域医療を担う医療者を育てるリジョナルセンターとして設立されました。長野県も全国の傾向と同じく、産婦人科や小児科を担う医師を中心に、厳しい医師不足に悩んでいます。

 何とか一人でも多く、若い医師を育成し、あるいはUターン、Iターンで医師を呼び戻し、地域医療を担う人材を手厚くしていきたい。待ったなしの状況で開設されたこのセンターが始めた企画の一つに、今回ご紹介する「信州医療ワールド夏季セミナー」があります。

 第1回信州医療ワールド夏季セミナーは、2007年8月16日から18日の3日間、大学所在地の松本市で開かれました。参加した医学生は、全国27医科大、医学部に在学する3年生から6年生が58人。そのうち18人は地元長野県出身だといいます。

 基本的なテーマは、信州の医療を見てもらう、そして参加した医学生が医師となったあかつきには招待者である信州の医療者と共に医療活動を行い、ここで医師としてのキャリアアップにトライしてほしい、ということです。

 開講式に医学部長から地域医療のプレゼンテーションを受け、脳外科教授から現在取り組み中のロボット手術を手術ビデオを使って説明します。さらに続いて地元出身で地域医療の中で育ち、現在は他学の教授として活躍中の外科医の修行話、地域医療経験談を聞いたあと、参加者たちは希望する各科にティーチングスタッフと共に赴きます。

 産婦人科では、ダミーを使って出産介助の実習を受け、小児科のNICUでは、多くの科が関与する濃厚な治療やカンファレンスに立ち会います。日ごろの大学でのベッドサイドティーチングに比べて、夏休みまで利用して本格的に自らの進路を意識しながら研鑽しようと参加したイベントですから、参加した学生も迎えるティーチングスタッフも表情や動作に真剣さがにじみ出ています。


 

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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