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医療に対する「当たり前」感を駆逐するために
橋本岳(衆議院議員)

2008/10/30

はしもと がく氏○1998年慶応大大学院政策・メディア研究科修士課程修了。三菱総合研究所研究員を経て、現在に至る。研究者としての専門は、電子自治体、地域情報化、インターネットを利用した住民参加など。

■医療体制は崩壊を始めている

 日本の医療体制は、既に崩壊を始めていると考えています。これまでは医師や看護師などの方々が、場合によっては文字通り睡眠時間を削って、医療体制を支えてこられました。その成果として、世界一の平均寿命を低い負担で達成できたのです。

 しかし、逆にいえば慢性的に勤務医らが不足しているがゆえの過重労働であったわけであり、そこに臨床研修医制度の導入による大学病院(医局)の医師引き上げや、国の財政的事情による医療費抑制策、医療に対する過剰な訴訟などが重なった結果、救急、産科、小児科、外科等のハイリスクな現場、そして地域からの医師離れが起こり、医療崩壊を招いているものと考えています。これまで努力と頑張りで支えてきたものが、それぞれのきっかけで限界に達し、折れたり燃え尽きてしまったのが現状でしょう。

 私の地元である岡山県倉敷市では、川崎医科大学附属病院および倉敷中央病院という二つの大病院が核となり、その周りに中規模の病院や診療所等が存在する比較的恵まれた環境にあります。しかし、それでも、市立児島市民病院の診療科縮小や三菱水島病院の病棟閉鎖といった形で、じわじわと影響が出ています。

■三つの対策

これに対し、私は現時点では大きく三つの対策が必要だと思っています。

1)医療者の頑張りに報いるための、医療への資源配分の強化
2)医療者に敬意を表し、医師患者信頼関係を結びなおす
3)国民皆で医療を支えるため、皆保険制度を維持する

 1)と3)は、医療の政策的・財政的枠組みについての問題であり、政治の場で既に多くの議論が行われています。1)については、やはり対GNP比総医療費をOECD平均(9%)以上に上げるくらいの対策が必要ではないでしょうか。もちろん、その負担についても考える必要はあります。

 また3)についても、長寿医療保険制度は大きな議論を巻き起こしましたが、高齢者の医療を支えていくために何らかの仕組みが必要なことでは、概ねコンセンサスを得ていると思います。

■「医師と患者の信頼関係の構築」の重要性

 私が今後ますます取り組みが重要になると考えているのは、2)の「医師と患者の信頼関係を取り戻す」です。1)は、いま起こっている医療崩壊に対して緊急に必要な措置と言えるのに対し、2)は体質改善のようなものだと言えるでしょう。

 過剰な医療訴訟、モンスターペイシェントの存在、コンビニ受診、救急車の濫用……といった問題の数々が、医療予算増で解決するとは思えません。むしろ、これらの問題を解決せずして医療費を増額させたところで、穴の開いたバケツに水を汲んでいるような観があります。

 また、現在大きな議論を巻き起こしている医療安全調査委員会の問題も、煎じ詰めるところ、いかにして医療の安全性を向上させ信頼感を回復するかという点がポイントとなります。いずれも根っこには、患者側と医療者側の信頼関係の問題が横たわっているのです。2)の信頼関係の再構築こそ、改めてゼロからのスタートを切るべき課題だと断言します。

 ここまで言い切ると、医療サイドの方々から「もう頑張っている!」というお声が聞こえそうな気もします。確かに、それぞれの診察室内において患者さんに丁寧かつ十分な説明を行い、インフォームドコンセントをとることに個々の医師や病院・診療
所として努力されていることには、全く疑いを挟みません。もちろん必要な取り組みです。

 しかし、社会現象たる上記の諸問題への対応としては、それだけでは実は手遅れです。理由のひとつは、「いつ受診するか」という、診察室以前の問題であることが多いこと。そして一方、診察室内には“実体のない信頼関係”があります。本来、人と人との信頼関係というのは、時間をかけたコミュニケーションの末にはじめて成立するものです。

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