パリにあるHospitalisation A Domicile (HAD:在宅入院連盟;Paris)を訪問し、そこに勤務するダース医師とブラン看護師からお話を伺いましたので、ここに報告いたします。
今回の訪問は、「がん医療における医療と介護の連携のあり方に関する研究」(班長:小松恒彦帝京大学ちば総合医療センター血液内科准教授)の一環として、フランスにおけるがん医療と介護の連携について現地調査を行ったもので、これはその報告の一部になります。
【HADの概要】
HADは小児~終末期および周産期(分娩は除く)の患者に対して在宅で病院と同等の医療を提供している機関で、パリとその近郊をカバーしています。パリの人口は約215万4000人(2005年)ですが、この範囲を成人では17のセクターに、小児では2つのセクターに分けて、訪問看護師の担当を決め活動をしています。
一方、産科は全地域を1つのセクターで担当しています。この結果、HAD全体では合計820人の患者の受け入れが可能で、医師は15名、登録訪問看護師は300人、医療行為はできないが身の回りの世話を担当する看護助手が150人働いています。
ちなみに、HAD以外にパリで在宅医療を提供している機関には民間非営利団体のサンテサービスがあり、1200床受け入れています。
【HADを受診する患者の30~40%はがん患者】
HADを受診する患者は多岐にわたります。成人は全ての診療科を扱い、その内容は、抗がん剤治療、在宅ホスピス・ケア、ターミナル・ケア、複雑なガーゼ交換、高齢者のケア、神経疾患等です。
一方、小児はがん(特に白血病)および小児糖尿病とその教育を、産科は分娩以外、主に高リスク妊婦の産前産後のケアを担当しています。なかでも注目すべきは、がん患者の化学療法が在宅で普通に実施されていることです。
【HADに働く医師の役割はコーディネート。医師全員が兼業】
HADでは15名の医師が働いています。820床に15人ですから、少数の医師で多くの患者を診ていることになります。このような医療提供が可能になっている理由は、彼らの主な役割が在宅医療のコーディネートに徹しているからです。
具体的には、医師は適切な医療行為を適切なタイミングで実施するように在宅看護師に指示し、自分自身で出向くことはあまりないのです。この状況は、日本の在宅医療とは大きく異なります。
では、HADに勤務する医師は、どのようにして自らの医療レベルを維持するのでしょうか。コーディネートしか行わなければ、医療レベルが低下してしまいます。この問題を解決するため、HADでは全医師がHADと他の医療機関を掛け持ちしています。半日はHAD、残りの半日は高度専門化した医療機関に勤務することがHADから義務づけられているのです。
ちなみにフランスでは、ほとんどの医師が1つの医療機関専属ではなく、2つ以上の職場を掛け持ちしているそうです。その典型的なパターンは、高度医療機関と地域で開業という形です。
【HADの登録訪問看護師は専従。専門看護師や認定看護師の資格は不要】
一方、HADの看護師は、医師とは異なり専従です。HADの看護師になるために求められるのは、他の病院での勤務経験があることと、何らかの疾患に対する専門的対応ができることです。専門看護師や認定看護師などの、HAD以外の団体が認証している資格は求められていません。
つまりHADの採用担当者が採用試験を通じて、ある分野での経験、知識、判断力、技術を兼ね備えていると判断すれば、HADで働くことができるのです。ただし、HADでは採用後に長時間のトレーニングを義務づけており、これを修了した看護師だけが一人で患者宅に出向くことができることになってます。
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