今回も、みなさんから寄せられたコメントに対する私の考えを述べていきます。前回お話しした後期研修の費用とも関連しますが、指導医へのインセンティブが必要だという意見もありました。これについては、僕も原則賛成です。
ただ、インセンティブは決してお金だけではありません。教育を受ける若い医者が自分に付くということ自体もインセンティブだと申し上げたいと思います。例えば、研修医が一人付けば医療の安全性が高まる。一見、矛盾するようですが。
一人で診療をやっていると、チェックは自分自身で注意深くやらないといけない。ですが、若い先生とペアでやるときには、教えるために頭を整理しなくてはいけないので、自然にセルフチェックができる。さらに、彼らは教科書的なことは学校で勉強してきているので、教科書から外れたことがあれば指摘してくれるわけです。
教育というのは決して教わる人のためだけではなくて、教える人のためでもある。自分の病院が教育病院になるということが、そもそも一つのインセンティブであるはずなんです。教育は確かに負担だけれど、自分の身も守ってくれるし、医療の質を高めてくれる。その認識、ギブ・アンド・テークの発想がないと、職業教育というのは成り立ちません。
研修医が肉体労働をやってくれるわけだから、きちんと育てられれば、その分指導医は楽になる。それもメリットですよね。でも、そうなると、今度は使える研修医は便利だから、長い間自分のところに置いて、手下のように使うようになるんですね。だから、僕は3カ月ぐらいでローテーションさせちゃう。新しい人の方が指導医も緊張するので、ミスが減るんです。そういう緊張感があった方が上手く回りますし、病院全体の医療の質は上がると思います。
今、うちの麻酔科のムードはすごくいい
余談ですが、うちの病院もこの間まで麻酔科ががたがたしていて、僕が職員から突き上げられ、そのことが雑誌に書かれたりもしました。ところが1ヵ月前に、新しい部長が来て熱心にやっていたら、最近は「よく教えてくれています」と若い先生の方から言ってきます。1人の存在で変わっちゃうんですね。今、麻酔科のムードはすごくいいですよ。身近にいて、いずれうちの麻酔科は逆に人気の的になると確信が持てるくらいです。
だから、教える側への金銭的なインセンティブはもちろん重要ですが、教育というものを持ち込むことで、職場自体が楽しくなって、自信が持てる、信頼し合える、というようにつながっていくことが、一番大事なのだと強調しておきたいですね。
医学生からの意見もありましたね。医学生は自分の将来がどうなるか分からないんですから、心配なのも無理はありません。
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著者プロフィール
土屋了介(国立がんセンター中央病院院長)●つちや りょうすけ氏。1970年慶応義塾大卒。慶応病院外科、国立がんセンター病院外科を経て、2006年より現職。
連載の紹介
土屋了介の「良医をつくる」
「良医を育てる新しい仕組みをみんなで作り上げよう」。医学教育、専門医制度の論客として知られる土屋氏が、舛添厚労大臣直轄の会議と同時進行で議論のタネを提供。医師、医学生、医療関係者から広く意見を募ります。
この連載のバックナンバー
2009/11/16
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2009/02/21
2009/02/18
2009/01/22