日経メディカルのロゴ画像

私が二階経産相発言に憤りを感じなかった理由

2008/11/13

 妊婦救急搬送受け入れ“拒否”(私はいつも受け入れ“不能”とメディアの方には説明しているのですが)の問題で、二階俊博・経済産業大臣が「入院受け入れ不可は医師のモラルの問題」と発言したことが報道されました。ほとんどの医療関係者は、既に日本の医療現場が、モラルの問題で解決できる一線を越えていることを肌で感じていますから、二階大臣の発言に驚きや怒りを感じている人が少なくないのではないでしょうか。

 早速、全国医師連盟の抗議声明をはじめとして、日本医師会、周産期医療の崩壊をくい止める会茨城県産婦人科医会など、医療界から幅広く抗議の声が上がっています。患者団体である兵庫県立柏原病院の小児科を守る会も、今回の二階大臣の発言に強く抗議しています。

 しかし私は、今回の発言に対して少しも驚きや憤りを感じませんでした。「二階大臣もまた、医療現場の実態を把握されていないのだ…」というのが率直な感想です。私は今まで、所属政党を問わず多くの政治家の方々に医療問題を説明してきましたが、ほとんどの方は医療崩壊の真の構図をご存じありませんでした。それは、お上(行政)による情報操作のためにほかなりません。

 このブログでも繰り返し解説してきたように、日本政府は1980年代から医療費抑制のために医師養成数を抑制してきました。このため、今や日本は世界一の高齢化社会にもかかわらず、先進国最低の医療費と最小の医師数による医療を提供しなければならない国になってしまいました。

 しかし、行政はずっと「医師不足は偏在が問題、日本の医療費は無駄が多い」という情報操作を繰り返してきました。その行政にレクチャーを受けるのですから、政治家のほとんどの方が、問題の所在を見誤っているのも仕方がありません。そしてその情報操作は、経済界やメディア、そして大変残念なことに医療界の実力者にさえ深く浸透しています。正直に言うと、この情報操作の構図が、私の活動の中で大変高いハードルとなっており、一番悩んでいるところでもあります。

 さて、折に触れて皆様にお願いしてきた「医師増員の署名」ですが、お陰様で11月10日の集計で10351筆となり、当初の目標の1万筆を超えました。

著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

この記事を読んでいる人におすすめ