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医療現場と国会が直結して、役人主導の医療行政を変えましょう
鈴木寛(参議院議員)

2008/11/11

すずき かん氏○1964年生まれ。1986年東大卒業。2000年第19回参議院選挙で初当選。教育や医療など社会サービスに関する公共政策の構築がライフワーク。現在、現場からの医療改革推進協議会事務総長、中央大学公共政策研究科客員教授。

1.東京でも妊婦搬送受入不能事態が発生

 本年10月4日に東京都内で脳内出血を起こした妊婦さんが、8ヶ所の医療機関で受け入れを断られた後、都立墨東病院に収容されて出産されたものの3日後に亡くなるという痛ましい事件が起こってしまいました。

 都立墨東病院は「医師不足で土日は基本的には母体搬送を受け入れていない」という理由で、最初の受け入れ打診には応じることができませんでした。出産に臨む母子の最後の砦である総合周産期母子医療センターにおいてさえ、妊婦さん受け入れに足る医師を確保できていなかった東京都の責任は重大です。

 都立墨東病院の産科医不足は、今に始まった問題ではありません。同院は東京都東部に位置し、東京都内に9つある総合周産期母子医療センターのひとつですが、同院では、平成15年度に8人いた産婦人科常勤医師が漸減し、平成18年11月には産科の外来診療の縮小をおこない、救急を除く新規の患者受入を停止しました。

 厚生労働省が本年10月24日に発表したデータによれば、産科の常勤医師は3名でした。以前より総合周産期母子医療センターの指定返上など、「その機能自体の見直しを図るべき」との現場の声もあるなか、この状態が放置されてきました。

 また、嘔吐等の症状を訴えた30代の妊婦が今年9月、調布市内の病院に入院中のところ、この病院から4km程度の距離にあり東京23区外の多摩地域で唯一の総合周産期母子医療センターである杏林大学病院(三鷹市)をはじめ複数の病院に受け入れを断られ、最終的に20km以上離れている都立墨東病院が数時間後に受け入れ、出産されましたが、都立墨東病院で脳内出血の処置を受けた後、まだ意識が戻らない状態とのことです。

 平成18年8月に奈良県で分娩中に意識を失った妊婦さんが19ヵ所もの病院から受け入れを断られ、搬送先の大阪府の病院で亡くなった事件は記憶に新しいところですが、同じようなことが再び起こってしまったことは極めて残念です。

2.やったふり、やりっぱなし、情報隠蔽の厚生労働省

 そもそも、奈良での事件を受け、平成20年度予算で厚生労働省は、「小児科・産科をはじめとする病院勤務医の勤務環境の整備等」に53億円を計上し、「母子保健医療対策等総合支援事業(統合補助金)」では周産期医療ネットワークの推進を始めていたはずです。

 厚生労働省は周産期医療ネットワークを国会で盛んにPRしていましたが、今回の件でも明らかな通り、情報を打ち込む人がおらず、案の定、機能しませんでした。周産期医療ネットワークは、人的ネットワークにしなければ意味がないのです。

 厚生労働省は、本当に実態把握を怠っています。国が補助金を出しており最後の砦でもある総合周産期母子医療センターの実態把握すら出来ていませんでした。本年10月24日には、厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課は「総合周産期母子医療センターについて(指定施設、病床数、医師数)」で、都立墨東病院の産科・産婦人科医の常勤は3人で、非常勤が2.3人と説明していました。

 ところが、10月28日付の「総合周産期母子医療センターについて【電話等で聞き取った速報値】」によれば、墨東病院の産科・産婦人科医の常勤(研修医、レジデントも含む)は6人で、非常勤(実人員)は9人と発表しました。初回の調査に比べ、2回目の調査結果は見かけ上の数字が大きく向上しています。

 なぜ、こんなにも数字が食い違うのでしょうか。これは、厚生労働省はいろいろな言い訳をしていますが、いずれにしても、人数カウントの基本的考え方すら、省内においてきちんと整理されていないことは事実です。

 また、私は、参院本会議で安倍首相(当時)に対して平成18年10月4日、「医師不足や医療現場の労働基準法違反の実態を調査し直すように厳命をしていただきたい」と申し上げ、総理は快諾して下さいましたが、厚生労働省は未だに動いていません。

 やむなく日本産科婦人科学会「産婦人科医療提供体制検討委員会」が実態把握に乗りだし、本年10月30日に発表した「産婦人科勤務医・在院時間調査 第2回中間集計結果 報告と解説(修正版)」によれば、当直体制の病院における月間在院時間は平均301時間(N=172 平均年齢41歳)、最大428時間であり、労働基準法の規定をはるかに超えている実態がやっと白日のもとにさらされました。

 そもそも厚生労働省は、本年6月までは医師不足は存在していないと強弁し続けていました。その見解を擁護するため、ほぼ全ての病院における労働基準法違反の長時間労働の実態を知りながら、調査をサボタージュし続けてきました。

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