日経メディカルのロゴ画像

過疎地医療はどうなるのか―いくつかのわが見聞から

2008/12/09

 むかわ町というと「ししゃも」の産地として有名な町ですが、北海道の地理をご存じない方にご説明すると、道央圏の南方に位置し、札幌市や空の玄関の千歳市、海の玄関である苫小牧市から、しばらく東に行ったところということになるでしょうか。

 むかわ町は、旧鵡川町と旧穂別町が合併した町ですが、12月5日に新聞各紙で、その穂別地区にある「むかわ町国民健康保険穂別診療所」(一木崇宏所長)に勤務する医師2人が今年度中に退職する見込みであると報じられました。

 これらの記事をみてみると、コンビニ受診が多いため、医師らの過重労働が常態化しており、「これじゃたまらん」と常勤医が辞意を表明したというところがあるかのように書かれています。このような事態に町当局は、時間外診療の原則廃止などの方針を出していますが、後任が見つからなければ無医地区への道をたどる可能性も大きいと思われます。

 さてこの穂別地区の人口は3800人余りで、過疎化と高齢化が顕著です。むかわ町の中心である鵡川まで40Km余り、2次病院のある苫小牧市までは70Kmの距離があります。この診療所はこのような事情にある穂別地区にある唯一の医療機関として住民のプライマリアを担っているので、単に不適切なコンビニ受診が医師を追いやったと即断はできるかどうかは微妙なところです。

 限界集落という定義に当てはまるかどうかわかりませんが、高齢化率の高い過疎地にあって、受診に際して機動性が弱い住民が多く、また高齢化ゆえに有病率も高いはずで、さらに老々介護なども珍しくないだろうとなれば、「コンビニ受診」という形容をとるかどうかを別として、少しでも不安があれば夜間でも診療所への依存性は高いのかもしれません。

 新聞報道によると、この診療所の昨年度の時間外診療件数は1256件に上るそうですが、この数字はどう評価すべきでしょうか?

 先日もある医療系メーリングリストで、24時間体制で往診可能な在宅療養支援診療所と過労やバーンアウトの問題を医師たちが議論をしているのを興味深く読みましたが、一口にコンビニ受診といっても単に語義的なニュアンス、またそれについての価値判断、さらに医療システムへの組み込み方、あるいは排除の仕方、さまざまなことを考えさせられます。

 昨年11月、医療経営学の専門家である城西大学経営学部准教授の伊関友伸氏が、ご自身のブログで「むかわ町国保穂別診療所の一木崇宏先生が一緒に仕事をする先生を探されています」と紹介されていた回で、その募集内容(一木先生の案内文章)を引用されていました。その内容は次のようなものです。(一木先生もこのたび診療所をお辞めになるので、もちろん過去の募集記事です)

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

この記事を読んでいる人におすすめ