ヘビメタファンはヘッドバンギング(ビートに合わせて頭を激しく振る行為)による頭頸部傷害リスクを認識する必要がある。オーストラリアNew South Wales大学School of Risk and Safety SciencesのDeclan Patton氏らは、ヘッドバンギングのリスクを評価する観察研究と生体力学的分析を行い、リスクを回避するための対策として、(1)保護用装具を装着して首振り角度を制限する、(2)首振りテンポを遅くする、(3)コンサート前に教育プログラムを実施する――などの方法を提案した。詳細は、毎年ユーモラスな報告を集めて掲載することで知られるBMJ誌のクリスマス号(2008年12月20日号)に報告された。
ロックコンサートの会場にいる若者たちに認められるめまいや混乱は、軽度の外傷性脳障害に起因する可能性がある。ヘッドバンギングによる頭頸部傷害の症例報告はいくつかあったが、この行為と傷害の関係を調べた正式な研究はほとんどなかった。
こうした頭頸部傷害に起因する臨床症状は、軽い頭痛程度の場合が多く、自然に解消するため、報告されにくい。しかし、米国の音楽業界ではハードロックとヘビメタが売り上げの約30%を占めていることから、実際にはヘッドバンギングによる健康被害は予想を超える規模である可能性がある。
ヘッドバンギングの歴史は、1969年、レッド・ツェッペリンの初の米国ツアーに始まる。ボストンでのコンサートで、最前列の観客が音楽に合わせて首を振ったその時に、ヘッドバンガーが誕生した。その後、音楽(主にヘビメタ)に同期した激しくリズミカルな頭部の動きをヘッドバンギングと呼ぶようになった。
ミュージシャンにもヘッドバンギングの被害が見られる。メタリカを2001年に脱退したJason Newstedの脱退理由の1つは、ヘッドバンギングによる身体のダメージにあると言われている。2005年にはエヴァネッセンスのギタリストTerry Balsamoが、ヘッドバンギングによる脳卒中を経験している。
著者らは、ヘッドバンギングに由来する軽度の頭部損傷と頸部傷害のリスクを評価し、リスクをコントロールする方法について検討した。
まず、著者らは、懐メロ的ハードロック/ヘビメタ・バンドのコンサート(モーターヘッド、モトリークルー、スキッドロウ、ヘルシティーグラマーズ、LAガンズ、オジー・オズボーン、ウィンガー、ラット、ホワイトスネイク、WASP)に参加して、ヘッドバンギングの様子を直接観察した。その結果、最も一般的な首振りスタイルは上下動であることを発見した。それ以外に、回転運動が加わる場合、左右の往復運動、全身運動となる場合なども見られた。
この観察結果に基づいて、生体力学的な分析を実施。頭部傷害と頸部傷害のリスクが首振り角度(45~120度)とテンポ(ビート/分)によりどのように変わるかを推定する理論モデルを作製した。
次に、ローカルなロックバンドのメンバー10人を選び、好みのヘッドバンギング・ソングの選出を依頼した。11曲(Queen「ボヘミアン・ラプソディー」、ディープパープル「スモーク・オン・ザ・ウォーター」、レッド・ツェッペリン「コミュニケーション・ブイレイクダウン」など)が選出された。メンバーにそれらを聴かせてヘッドバンギングを実行してもらい、首振りのテンポ(1分当たり)を測定した。
海外論文ピックアップ BMJ誌より
BMJ誌からコンサートでの激しい首振り、何度を超えると危険?「直接観察」に基づく推定では、105°超で頸部傷害のリスク
2008/12/24
大西 淳子=医学ジャーナリスト新規に会員登録する
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