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患者負担なし、訪問診療でも―在宅療養支援診療所の危機に発展の恐れ?

2009/01/09

 昨年末に「違法か適法か、無料歯科診療所の?な手法」(2008.12.30)という、当地札幌で、あるNPO法人が歯科医院と提携し、会員となった患者の自己負担分を事実上無料にしていることが発覚し話題になっているというお話しをしました。

 さらに1月4日付北海道新聞は、札幌市内の2つの「在宅療養支援診療所」が、訪問診療の診療費の自己負担分を無料にしていると報じています。この2つの診療所は別個の医療法人が運営しているものの、会長は同一人物です。

 その会長の説明によると、認知症の高齢者が入所するグループホームなど札幌エリアの約40施設、約400人の患者に対し、2007年5月ごろから月2回の定期訪問診療を定額の月3000円の患者負担で実施し、このうち施設側との協議を経て、08年7月以降、約100人を無料にしたといいます。

 歯科医療の自己負担分実質無料化の話題でもお話した通り、健康保険法にはちゃんと患者が一部負担金を支払うべきことが定められています。例外的に減免の特例措置のあり得ることも定められてはいるものの、そのように減額された一部負担金でもきちんと請求して、それでも支払われないときに、次の処理に移るべき手だてが定められています。医療機関が、恣意的に自己負担分を減免することは、健康保険法で禁じられています。

 北海道新聞の記事によると、無料診療を始めた経緯について、医療法人の会長は「医療費の自己負担分を払えない弱者のために」と説明しています。しかし、自己負担分を無料にしても患者一人当たり月3万7000円以上(本来は最低月4万2000円)の収入は確保できるため、医療法人側にも十分利益があった可能性もあります。

 昨年末に話題になったNPO法人と歯科医院の自己負担分実質無料化も現在、道が調査中です。この訪問診療の自己負担分無徴収もこれから行政調査が進み、仮に事実関係が報道の通りであるとすれば、健康保険法上の自己負担分徴収義務違反という非違行為として、行政処分の検討もあり得るでしょう。

 北海道新聞の取材に対し、医療法人の会長は、施設側から定期の訪問診療を格安にしている医院があると伝えられ、割引や無料を余儀なくされた旨の回答をしています。仮に訪問診療の世界でこのような自己負担分ダンピングが珍しくないということになれば、個々の医療機関の問題を超えた由々しき問題ということにもなりかねません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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