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専門医の「数」を減らさなければ「質」を保てない

2009/01/22

 前回、国民が望むような、健康管理や日常の指導ができる医師、総合的に患者を診ることができる医師がどんなものかコンセンサスを形成して、その上でそういう医師を育てるシステムを作らなければいけないとお話ししました。

 それと同様に、医師教育体制を考える際には、理想とする医療体制を思い描いておくことも、とても大事です。以前から、学会が認定している専門医や、これから作ろうとしている後期研修のプログラムに「定員」が必要だと話しているのは、その理由からです。

 今までの各学会の動きを考えると、そういった考え方や議論はなしに、専門医を作ってきたのではないでしょうか。

 例えば、アメリカの胸部外科学会の会員は4000人程度です。一方、日本国内の胸部外科医は8000人程度。どうして日本の方が人口が断然少ないのに倍もいるんでしょう。僕はおかしいと思うわけですが、今までのように「数が力」だという考え方でいると、それを疑問に思わないでしょう。9000人を割った、8000人を割った、専門医が減って大変だ、と学会は騒いでしまうわけです。

 学会員の人数にこだわらず、それを質に変えて考えてみればいいのではないでしょうか。専門医の数が多く、それぞれの経験年数が少なければ、質の維持は大変です。むしろ、専門医の質を維持するためには、このくらいの医師数で抑えるべきではないかという英知が出てくれば、その医師のグループは国民から尊敬されるでしょう。

 さらに、その質を維持するためには、スキルのレベルによってインセンティブをつけるのも重要でしょうね。例えば、家庭医の場合、後期研修を受けて、あるスキルを獲得した人については保険点数を変えるといった具合でしょうか。

 どういう形でインセンティブを付けるかは議論のあるところでしょうが、やはり、トレーニング中のドクターとトレーニングを受けて専従した人で、報酬が一緒というのはおかしいですね。これは年功序列とは違います。一般社会においても同様で、熟練工と訓練生が同じ給料のはずがないでしょう。

卒業生8000人に対して初期研修定員1万1000人は厚労省の罪
 今後、専門医・家庭医の後期研修プログラムを考えるときにも、患者のニーズに合わせた定員は厳格にあるべきではないでしょうか。欧米でも、トレーニングコースで各診療科、就職先の定員が決まっています。もちろん、職業選択の自由はあるべきですが、それは競争があっての自由だと思います。同じ道に進みたい人が多かったら、競争すればよいのです。それはどこの社会だって同じですね。

 今の臨床研修制度の一番の悪い点は、8000人弱しか医学部の卒業生がいないのに、初期研修医の定員総数が1万1000人もあるという現状を放置しているという点です。これは、まさに不作為の罪が厚生労働省にあると思います。

 もともと、社会が必要とする医療の量は決まっているので、ある程度の幅はあるでしょうが、おのずから各地域でどういった医者がどれだけ必要なのか、決まってくるでしょう。

著者プロフィール

土屋了介(国立がんセンター中央病院院長)●つちや りょうすけ氏。1970年慶応義塾大卒。慶応病院外科、国立がんセンター病院外科を経て、2006年より現職。

連載の紹介

土屋了介の「良医をつくる」
「良医を育てる新しい仕組みをみんなで作り上げよう」。医学教育、専門医制度の論客として知られる土屋氏が、舛添厚労大臣直轄の会議と同時進行で議論のタネを提供。医師、医学生、医療関係者から広く意見を募ります。

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